6
「あら、いま何か聞こえなかったかしら」
マダムの不審げな表情に敷島は「いえ、何も」と答えて肩をすくめる。
嘘だ。
あいつには聞こえているはずだ。
自分が殺した男の霊に気がついていて、なお知らないフリをしているだけだ。
この数ヶ月、俺は社用車のトランクに閉じ込められている。
殺された後、しばらく遺体がそこに隠されていたせいかもしれない。
けれど俺の肉体はもうない。
きっと敷島がどこかに遺棄してしまったのだろう。
また彼女が罪に問われず、のうのうと仕事を続けているということはそれが露見していないということだ。
俺は毎日のように内見案内や物件の下見に使われる車のトランクの中でじっと身を伏せている。
そしてどういうわけか、敷島の内見案内の時にだけトランクから解放されるのだった。
「なかなかいい物件ね。候補リストに加えておくわ」
「ありがとうございます。息子さん、第一志望に合格するといいですね」
「ホント、それよね」と何度も肯くマダムに向けられた軽やかな笑みが一瞬、こちらに向いた。
怖気が走った。
同時にナイフが突き立てられたときの灼熱と痛みが胸元に甦って俺は呻いた。
このところの俺は内見案内の付き添いばかりしている。
そして早くこの女から解放されたいと切に願っている。
NAIKENコンダクター 那智 風太郎 @edage1999
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