KAC20242 掘り出し物件。そこに埋まるは男のロマン。

久遠 れんり

内見会で見つけたもの。それは生きがい。

 七十を過ぎて、急に体調を壊し、妻が逝ってしまった。


 葬儀を終え、急にひろくなった家の中を見回す。


 葬儀のときには、人が沢山いて賑やかだったが、一週間もすれば忌引きも終わり。みんなは帰っていく。


 気がつけば、ふと妻が現れ、小言を言い出しそうな空間。

 すべての言葉に『またあなたは、』それが枕詞だった。

 今となっては、懐かしいとも思える。



 基本的にテレビは見ないので、外にいる虫の声が聞こえる。

 健康に良いからとか、長生きするためなどといわれて、やめていたたばこ。

 久しぶりに、ライターを引っ張り出してメンテナンスをする。

 ケースに入れていて、錆はない。


 オイルを入れ、特有のアクションで火を付ける。

 有名なライターと違い、ワンアクションで火が付く。

 あのケースを開けたときに聞こえるキンという音も好きだが、こちらはオイルタンクを火を点けたまま、抜き差しできるのがアウトドアで重宝した。


 葉に火が付き、久しぶりの煙。

 多少、しけっていたが吸えるようだ。

 立ち登る煙が、天井からぶら下がっているペンダントライトを包む。

 昔と違い、和風なLED蛍光灯。


 たばこを居間で吸っていると、台所から顔を出し「またあなたは」その言葉を期待するが、今回は何も言ってこないようだ。

 

 それからしばらく暮らすが、どうにも長年のなれといものはおかしなもので、聞こえていたタイミングで文句が聞こえてこないと調子が悪い。



 ――考えた末。

 あまり大きくはなく、一人で暮らせる家を、探すことにした。

 

 少し開けたところで、危なくない程度の川のそば。

 孫達が来たときに遊べる場所が欲しい。

 不動産屋に聞くと、今丁度良いのがあるらしい。


 しかも、誰かの別荘だったらしく、少し大きめの浄化槽も埋まっている。

 広場は屋地やちの一部で、駐車場どころか、ちょっとしたグラウンドくらいある。


 雰囲気、段々の畑を整地して一枚にしたようだが、登記では雑種地だった。


「広ければ何でもできる。家も申し分ない」

 住宅の内見は済ませて、話をする。


 ただ山の中だというのに、意外と値段が高い。

 この屋敷がある山。すべてが含まれているとさっき聞かされて驚いた所だ。


「流石に少し予算がな」

 まだ退職金や、年金を残し、切り詰めた分はいくらかある。

 かといって、ここを買い取ると少し厳しい。


 筆の境に有る境界標を不動産屋と確認していると、広場の向こうに荒れた感じだが石塔が幾つも建っている。

「ああ、それはお墓じゃありませんから」

 不動産屋があわてる。

 こちらにも屋敷があり、その背後にこの石碑が残されていたらしい。


「ああ。そうだね。何か記念碑のようだし、しるべのような文言が……」

 その時、手前ではなく奥側の小さな石柱が目に入る。

 それこそ墓石のようなものに、刻まれていた文字。


『この地に、国の造営のごときもの家ごとにをこむ。かしこう掘り出でつべし 当家……』

 

「何か面白いことでも書いてありますか」

 つい、じっと読んでしまった。

 態度に出ないようにしよう。うん。


「難しくて読めんな」

 腰を伸ばして、すこし、空を眺める。


「――買おうか」

 そう言うと不動産屋が驚く。


「本気ですか?」

「ああ、考えたが雑種地は農地に戻しても良いだろ。これから先、ここを畑にすれば、一人食うなら困らん。金はどうせ、あの世に持っては行けんしな」


 そう伝えて、契約をするため、街へ戻る。


 買い取った後、雰囲気は良かったが、石碑を高圧洗浄機で洗う。


 全部を読み直し、密かに航空写真で確認する。

 当然クロップマークやソイルマークを確認するためだ。


 クロップマークというのは、表面上は同じ田んぼでも、地下の遺跡や川の跡などで、上部の作物などの生育に差が出る。

 ソイルマークというのは、同じく地下の状況により、乾燥度合いが雨の後などに、差として出ることがある。


 そう俺は、宝物。

 埋蔵金が埋まっているという石柱を読んだ。


「この地に国の絡んだ埋蔵金。何かで集めた金や物資を埋めた。必要に応じて掘れみたいな文言だと思う」


 まあ、老い先短い人生。

 日がな一日。家に籠もり、妻の幽霊に出てきてくれることを願うよりは、きっと正常だろう。

 残りの人生をかけて、掘ってやる。



 その後。彼は、ぼけることもなく。本当に元気で、死ぬ寸前まで、重機を操作していたという。


 彼はきっと、良い生きがいを見つけたのだろう。


 酒のグラスを持ち。嬉しそうな顔で、ダイニングの椅子に座ったまま亡くなっていたそうだ。その日の作業が終わり、きっと満足をして…… 眠るように……


 そこはまさに、掘り出し物件。

 本当に宝などはなくとも、きっとロマンが埋まっている。


 数年後、定年で帰ってきた彼の息子も、一心不乱に重機を扱っていたとか……

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KAC20242 掘り出し物件。そこに埋まるは男のロマン。 久遠 れんり @recmiya

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