1LDKMの住宅
田中勇道
ワケあり住宅
「どういうことだ」
「こういうことです」
不動産会社の男が平然と言った。一人暮らしを始めようと内見に行ったのはいいのだが、その住宅にはおばちゃんがいた。
「あら
「新しい住人候補の
「このおばちゃん、あんたの母親か」
「一応、もう縁は切りましたが」
「そういう問題じゃねーよ! なんで人がいるんだよ」
「あれ? サイトに書いてませんでした? 『ワケあり』だと」
確かに不動産サイトには小さく『ワケあり』という記載はあった。家賃が安かったのと近くにスーパーがあるので決めたのだが、まさか人がいるなんて。
「ちょっと住屋さんだっけ? 初対面の女性に『おばちゃん』は失礼でしょ」
「いや、それよりあんた自分
「無理。ここ1LDKMなのよ?」
「は?」
「リビング、ダイニング、キッチン。そしてmadam、いやmother? いいえ、mamaね」
「どれでもいいわ!! さっさと帰れや!」
「住屋様、大変恐縮ですが、この物件は確かに1LDKMです」
「あんた頭大丈夫か?」
「ちょっと静かにしなさい。近所迷惑よ」
「誰のせいでこうなってると思ってんだ」
もうこんな茶番に付き合ってられねぇ。
「よし、帰る」
「お待ちください住屋様! 母を助けてやってください」
「てめぇ、縁切ったんじゃねぇのかよ」
「縁を切っても母は母です。HAHAHAHAHA!」
「ぶっ殺すぞ!」
「こら、人のいるところで『殺す』なんて言わないの!」
「なんなんだよ、てめぇら!!」
もう何回ツッコんだだろう。ボケは二人もいらねぇよ。
「わかった。もうここに住まなくてもいいから最後に手料理だけ食べて行ってくれない? お腹減ったでしょ」
おばちゃんがそう言ったと同時に腹が鳴った。確かに減ってはいる。原因は100%こいつらだが。
俺が首肯すると、おばちゃんは笑顔で料理を作り始めた。俺が玄関にあがると隆と呼ばれた男も一緒に入ってきた。結局ここ空き家なの?
1LDKMの住宅 田中勇道 @yudoutanaka
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