【KAC/甘くないお仕事SS2】侍女たちは恋バナが好き

滝野れお

侍女たちは恋バナが好き

 ラキウス王国の王宮にある使用人食堂はいつも大賑わいだ。とりわけ若い侍女たちは、いつも数人で集っては楽しげな声を上げている。


 ところが、キアと一緒にいる侍女たちだけは、少し様子が違っていた。


「いいことキア? 推し活と現実の恋は別なのよ。もちろん現実の男はイザック様みたくカッコ良くはないけど、実際に手で触れられるし話も出来るでしょ?」

「そうそう」


 キアはむむっと眉間にしわを寄せた。

 彼女たちは何故、黒狼隊のイザック・リベリュル隊長をまるで物語の中の人物かのように語るのだろう。ついこの間まで「石になっても良いからイザック様に見つめられた~い♡」と言っていたくせに。


「リベリュル隊長だって、現実の男の人だよ?」


「キアは黒狼隊付きの侍女だから、私たちよりずっとイザック様との距離が近いのはわかるわ。でも、そろそろ現実を見ないとダメよ」


「実はね、私の同室の子が結婚するの。城下に借りる家を内見しに行くんですって。特別に、あんたも連れて行ってあげるわ!」


「えっ?」


(なんで、あたしが、知らない人の新居を?)


 キアは意味が分からず、ポカンと口を開けた。



〇〇



「なかなか良い部屋だろ?」

「本当ね、うふふ」


 ピタリと寄り添い、部屋を見て回る恋人たち。

 その後ろには、お邪魔虫が約三名。


「部屋は居間と寝室だけなのね」

「台所が小さいわ。薪ストーブで調理するのかしら?」

「二人とも王宮勤務だから食堂で食べるんじゃない?」


 コソコソと話し合うお邪魔虫たち。

 無理やり連れて来られたキアも、城下に出て賃貸物件を見ているうちに、心がくすぐられてしまった。


(あたしもいつか誰かと……)


 そう思った途端、ポンッとイザックの怜悧な顔が浮かんでくる。


(いやいや違うから!)


 彼女たちがこの内見にキアを連れ出したのは、現実を見せるためだ。例えそれが推し活であろうと、身分違いの恋にうつつを抜かしてはいけないのだ。


 キアは両手で頬を叩き、頭の中からイザックを追い出した。

 その時、急に玄関の扉が開いて、知らない人がドヤドヤと入って来た。


「遅くなってゴメンよ」

「うおっ、良い部屋だな」

「酒と食い物買って来たよ」


 突如現れた三人の青年たちはどうやら新郎の友達らしく、居間のテーブルに料理を乗せている。


 事態が呑み込めずにいるキアの目の前で、侍女仲間の二人がクスクス笑いだす。


「キアは誘っても来ないから、内見をダシにしたのよ」

「さ、結婚祝い(と云う名の合コン)を始めましょ!」



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