第5話 男目線

 男が部屋の中に入ってきた時、俺は五年前のことを思い出して一瞬足が竦んだが、女がナイフで刺されそうなのを見て、気が付いたら女の盾になっていた。


 男はナイフが女に刺さらず怪訝な顔をしていたが、それもそのはず、男には確かに人を刺した感触が残っているはずだからだ。


 俺は確かに男に刺された。しかも一度ならず二度までも。

 しかし、幽霊である俺に、そんな攻撃が効くはずはなかった。

 男はとるものもとりあえず逃げていったが、今頃パニックになっていることだろう。


 男が逃げたのを確認すると、女は俺の目をじっと見つめてきた。

 やっぱりこいつは俺のことが見えているのだと思ってそう言うと、女はなぜかそっぽを向き、聞こえない振りをした。


 やがて警察が来ると、詳しく事情を訊くために、女は警察署に連れていかれた。


(これで女はここを出て行くだろう。せっかく若い女と暮らせると思ったのに……)


 


 結論から言うと、彼女はあんな目に遭ったというのに、ここを出て行かなかった。

 それどころか、最近は笑顔で俺に話し掛け、ご飯まで作ってくれる。

 俺も彼女の要望に応え、食事の時はちゃんとテーブルにつき、ご飯を食べる振りをしている。

 テレビも一緒に観て、風呂も一緒に入って、同じベッドで寝ている。

 今までこの部屋を内見する者が現れる度に(また男か)と、ぼやいていたのが、まるで嘘のようだ。

 そんな幸せな俺だが、一つだけ不安なことがある。


 彼女に彼氏ができた時、俺はどうなってしまうんだろう。


  了



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊に恋した女 丸子稔 @kyuukomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ