住宅の内見は恋のはじまり!?

うり北 うりこ

第1話


 三月中旬。私はアパートの内見に来ていた。


「大学に近くて人気があるんですよ。学生さんも多いですし、徒歩十分でスーパーもあります」

「そうなんですね。かなり魅力的なのですが……」

「やはり気になりますか?」

「はい」


 私の出した条件を全てクリアしたこのアパート。問題は、出るらしいのだ。


「他も見てみましょうか」

「うぅ……。でも、こんなに好条件なお部屋って……」

「三月ですから、難しいかもしれません」

「ですよね……。この部屋を見学された方って他にもいますか?」


 こうやって悩んでいる間にも、他の人が契約をしてしまうかもしれない。


「やはり何名かは……」


 親の都合がつかず、なかなか内見にも来れなかった挙げ句、今日も急に仕事が入ってしまったのだ。相談したくても時間がない。

 入居してみて駄目なら引っ越してもいいから、とりあえず決めて来いって言われたし……。

 でもなぁ……。


 部屋を出て鍵をかけている不動産屋さんを眺めながら、頭の中でぐるぐると考える。


「あれ? 夏帆かほじゃん。何してんの?」

一樹いつきくん!? なんで、ここに?」

「何でって、ここ俺の部屋だし」

「うそっっ!!」


 一樹くんは、初恋のお兄さんだ。近所に住んでいて、二年前に独り暮らしをするからと引っ越していった。

 帰ってきたところを見かけたことはあったけど、話すのは久し振りだ。


「ここにします」

「いいんですか?」

「はい。一樹くんが隣の部屋なら大丈夫なので」


 不思議そうに首を傾げている一樹くんに笑いかける。


「一樹くん、このアパート出るらしいのよ」

「何が?」


 ごくりと唾をのみ込んだ彼に、その気持ち分かるよ……と心の中で頷く。


「ヤモリが」

「……これだけ自然豊かなら出るだろ」

「私、爬虫類は本当に駄目なのよ。出たら、助けて!!」

「いいけど」


 くすりと笑う姿は大人っぽくて、大してない胸がギュンッと撃ち抜かれた音がした。


「あっ、ヤモリ」

「ギャーー!!!!」

「嘘だよ」


 音がした気がしただけだ。うん。


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