わがまま一万倍

UD

わがまま一万倍

「あなたは本当にわがままな人」

「え? どこら辺が?」


「自覚がないのかもしれないけど私、相当甘やかす人なのよ、あまあまなの。その私が本当にわがままだな、こいつって思うほどにあなたはわがままなの、わかる?」

「ちょっとよくわかんない。君はよく私にわがままだって言ってるよ? あまあまな人はそんなことを言わないんじゃないかな?」

「ちょっ! 百回に一回よ言ってるの! 百回思ってるうちの一回しか言ってないのよ! それでも多いと⁉」


「例えばどんなわがままよ?」

「コーヒー淹れろとかお風呂入れろとか」


「待って。それがわがままなの?」

「そーよ。自分のことは基本自分でやるものよ」


「ふむ。じゃあさ、コーヒー飲みたい? って聞いてきてさ、うんって答えたらじゃあ淹れてって言うのは?」

「それよ! そういうのをわがままって言うのよ!」


「それ、いつもあなたがやってるやつじゃん」

「え?」

「それ! いつもあなたが私に言うやつですよ」

「そ、それは、たまにはそういうことも」


「ねえ、お風呂入る? うん。じゃあお湯貯めて」

「……」

「ねえ、おなかすいた? うん。じゃあご飯作って」

「……」


「これってさ、直接言うよりひどいよね?」

「うー」


「わがまま百倍じゃない?」

「私があなたに言う百回に一回の百倍…… って一倍じゃん」


「いやそれってもう倍とは言わないんじゃないかな?」


「なんの話なのよこれ」

「私とあなたのどちらがわがままかって話?」


「だからあなたがわがままだと」

「いや、百回思ってるの百倍だからさ。あなたはわがまま一万倍てことになるよね?」


「なにそれ」

「今月の新曲よ」

「どういうこと?」


「毎月、面白いことを言うでしょう?」

「え? 毎月? そんなことないよお」


「言ってるよ、毎月あなたから新しい言葉が生み出されてるよ」

「そんなバカな。私は何の面白みもない人間ですよ」


「あなたがいて、私の人生は面白いんですよ」

「ほんと、わがまま一万倍だわ。もう、はなさないで」


(完)


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