無敵バッファローのステーキ~オニオン風味~
生來 哲学
AAAクエスト『無敵バッファローの進路を逸らせ』
僕たちには三分以内に終わらせなければならないことがあった。
そう、王国から受けたクエストである。
これは冒険者ギルトを通した正式なものであるが、事実上の王命であり、いつものように気に入らないからといって断ることは出来ない。
絶対に成し遂げなければならないことだ。
本来であればこんな超高難易度クエストなどBランク冒険者の僕らに回ってくることなんてまずありえないのだけど、上に居るAランクの冒険者が全滅してしまったのだから仕方ない。
内容は『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの進路を逸らせ』と言うものである。
僕の記憶が正しければ最初のクエスト名は『不遜バッファローの群れ討伐依頼』だった気もするが王国に存在する上位冒険者が全て教会で蘇生待ち状態となったため、もはや討伐を諦めて進路を逸らすところまで妥協したらしい。
妥協してくれてありがとう、と言うところだけどこの妥協ですら僕らにはかなりきびしい。
何せ『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』である。
王国が隣国との戦争で賢帝ブルドーレを処刑した際、賢帝の呪詛と共に帝城にて召喚されたのがかの正体不明のバッファローの群れである。
異世界から召喚されたと思わしきそのバッファローの群れは帝国に駐留していた王国軍をあっという間に蹴散らし、誰も止めることも出来ないまま王国と帝国の国境を越え、王国領の各砦を蹂躙し続けている。
先ほども言ったとおり、幾人もの冒険者が挑んだが、すべて倒された。
今も王城に向けて進軍する無敵バッファローの群れを止める為にBランクの冒険者達が街道で戦いを挑んでいるが、どの防衛ラインも突破されたという報告しか聞こえてこない。
AからZ班までに分かれたBランク冒険者パーティのうち、僕たちはZ班。すなわち最終防衛ラインであり、最弱のパーティだ。
Bランクのうち、ギルドランク暫定26位の僕たちなんてCランク冒険者も同然。
こんな鉄火場にかり出されて良いような実力ではない。
それでも――僕たちは成し遂げなければならない。
バッファローが僕たちの任された防衛ラインを通過する時間は三分。
すべてはこの三分以内に終わらせる。
「みんな、準備はいい?」
僕は声をうわずらせながらもなんとか仲間に声をかける。
エルフの魔法使いの僕――エレクシア・シュテイナー。
ドワーフの斧使い――ガンバレル・ゲイゲイン。
ヒュームの剣士――ボルケート・シテラーノ。
ハーフリンクの盗賊――ジャジャム。
いずれもこの二年苦楽を共にしてきた頼れる仲間だ。
「なるようにしかならぬ。戦いとは、そういうものだ」
ガンバレルが年を経たドワーフらしい達観した言葉を吐く。
「つーかさ、逃げ出すなら今でしょ。姉ちゃんも分かってるでしょ」
ハーフリンクらしい賢しらな意見を述べるジャジャム。
「無敵のバッファローかぁ、肉が引き締まっててステーキにすると美味しそうだな」
「「「は??」」」
ヒュームらしくないぼけっとした意見を放つボルケートの言葉に僕たち全員が目を点にする。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 相手はあらゆる武器を跳ね返し、あらゆる魔法をも打ち消す無敵のバッファロー軍団なんだよ!! 南海の帝国からここまで誰一人討伐出来なかった、南海バッファロー軍団を! 食べようとか! 頭大丈夫なの? 僕の魔法の先生でもそんなとんちんかんなこと言わないよ!」
「まあまあまあ、落ち着くんだエレクシア。話を聞いてくれ」
「……んもう、その顔は何か策があるって顔ね」
「魔法使いとしての専門家に訊きたいのだけど、その南海バッファロー軍団は武器や魔法をすべて跳ね返すっていうが、武器以外のものはどうなんだ?」
「何が言いたいの? 僕に分かるように言ってよ」
「つまりこういうことさ――ガンバレル、頼めるかい?」
「Y地点の冒険者が全滅しました。Z班の方々、後はお任せします」
伝令兵が僕たちの元へやってくる。
「……分かりました。後は僕たちに任せてください」
僕は応えたけど、伝令兵の視線は僕の後ろに向いていた。
「……あれ? 後ろのものはもしかして――」
「ああ、あれですか? あれはうちの鍛冶師が作った特製の『包丁』ですよ」
つまりはこうである。
かの南海バッファロー軍団は武器や魔法など「攻撃手段」を打ち壊し破壊するものである可能性が高いと考えたのだ。
なので剣や魔法は通らない。
けれども、調理器具なら?
ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ
遠くから南海バッファロー軍団の嘶きが聞こえてきた。
「どうか避難を!」
そして僕は杖に魔力をこめ、固定化の魔術を放った。
ガンバレルの作った包丁をあらかじめ巨大化させて街道に設置しておいた。
更に土魔法を用いて包丁を縛り付けてある柱を固着化させている。
後は――後は――神に祈るのみである。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
全てを破壊して突き進むバッファローの群れが今まさに設置された包丁へと突撃してくる。
すると信じられないことが起きた。
どれだけの攻撃を受けてもびくともしなかった牛たちがあっさりと両断され、次々と倒れていったのである。
「う、うぉぉぉぉぉやったぁぁぁぁぁ!」
僕の横で伝令兵が声をあげる。
「すごい! すごいですよ、あなたたちは英雄です! すぐに王城へ――」
「あ、待ってください。これからが大事なんで」
「え?」
ボルケートの真剣な顔に伝令兵がびくりとする。まさかまだ戦いが終わってないと言うのか。
「肉は鮮度が大事です。我々はこれから食事にするので、食べ終わるまで王城には行けないとお伝えください」
「はぁぁぁ?」
「えへへへ、僕も言ったんですけどね。ごめんなさい、うちの若造ったら、食い意地が張っちゃってて。あは、あはははは」
うう、視線が痛い。なんで僕みたいな美少女エルフがこんな変人を見るような目で見られないといけないのか。
「これだからエルフは気が利かないねぇ。
王様にはこう言っといて。討伐したバッファローの肉でパーティをするので、是非来てくださいってね」
ジャジャムのハーフリンクらしい憎たらしい物言いに伝令兵はなるほど、と言って去っていった。僕のようなエルフには分からないけれど、うまく伝令兵を説得出来たらしい。
ジャワァァァァァッ
鼻腔を刺激する肉汁の匂いが辺りを漂う。
振り向くとボルケートとガンバレルのマッスルコンビが肉を切り分け、鉄板で調理を始めていた。
香ばしい匂いに思わずよだれが口の端から落ちていく。
「っと、僕としたことが美しくないことを」
「なんだ、そんなこと気にしてるのか。エレクシアは細かいな」
「なんだよう、僕にとっては大事なことなんだよう!」
「じゃ、肉は要らないのか?」
「…………ううぅ、食べる」
「ふふ、素直でよろしい」
にっこりと笑うボルケートに僕は何も言えず、いつものように顔をしかめる。
「肉はどれくらいでやけそうなの?」
「ああ、君の分なら後三分もすれば焼けるだろう」
ガンバレルの言葉に僕はじゅるりとまたはしたない音を立ててしまう。
「あと三分か。楽しみぃ」
なんだかんだ僕もこの食いしん坊パーティの一員らしい。
僕はいそいそと酒を用意した。
勝利の美酒と共に肉を味わうために。
了
無敵バッファローのステーキ~オニオン風味~ 生來 哲学 @tetsugaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます