さよならを覆す最高の方法

長月瓦礫

さよならを覆す最高の方法


「ねえ、絶対に手を離さないでね」


母の手をしっかり握る。その手はわずかに震えていた。

棚の隙間からこっそりと二匹は人間の様子をうかがっていた。


「大丈夫かなあ、おじちゃん」


「心配いらないわ。あの人たちは私たちよりも数が多いし、すばしっこいし、何より気持ち悪いもの……」


黒光りする甲虫たちはありとあらゆる隙間に忍び込んでいた。

彼らは人間たちを追い詰め、部屋の中央にある罠へ誘導する作戦である。


「ただいまあ」


玄関口の明かりがともった瞬間、黒い甲虫たちは一斉に飛び出した。

縦横無尽に壁を走って飛んで、人間に襲い掛かった。黒い風が吹き荒れる。


人間は言葉にできない叫び声をあげ、外に出てしまった。

ダンダンダンと廊下を走る音が聞こえ、部屋から離れていくのが分かる。

部屋から追い出してしまった甲虫たちはとぼとぼと冷蔵庫の裏へ戻ってきた。


「おじちゃん、外に出て行っちゃったよ?」


「……すまない、少々驚かせすぎた」


「しょうがないわね、まったく。次はしくじらないようにね」


母ネズミは甲虫の背中を叩く。


「あらら、逃げられちゃったのね。大迫力だったけど、ダメだったのかあ」


タヌキの一族が部屋の奥からひょっこりと現れる。

部屋の奥まで連れて行き、彼らに押しつぶされる。

人間たちに目に物を見せてやろうと考えた作戦だった。


小さな生き物たちは互いに手を取り合い、人間への反逆を誓った。

同胞たちを何匹も殺された。罠にかけられ薬を吹きかけられ物を叩きつけられ、とにかく殺された。彼らは生きていたいだけだ。


仲良くできないのは分かっている。人間側が自分の都合しか話さないからだ。


しかし、これ以上は限界だった。

同胞が殺されているのを見て、どうして黙っていられようか。


「うーん……俺たちが頑張りすぎるとダメなんだなあ」


「なんだか難しいねえ」


「そうね、次は少しやり方を変えてみましょう。きっとうまくいくわ」


お互いに励ましあいながら、彼らは持ち場に着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さよならを覆す最高の方法 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ