【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿⑥鳴き声はトリあえず!編

竹神チエ

ペットのビネガーちゃん

 大富豪左利きのマヨネーズ氏が怪盗タルタルの餌食になった。月が昇る夜までに救出しなければ、マヨネーズ氏はタルタルソースになってしまう。


 事件解決に乗り出す右利きのケチャップ名探偵。


 怪盗タルタルの協力者として突如浮上したのがマヨネーズ氏の姪マスタード嬢だった。ペッパー警部の厳しい追及と暴露癖がある家政婦ウスターにより、ツブツブの涙を流す彼女に、ケチャップ名探偵はギャグの冴えを失ってしまう。と、その時だ。きゃーっ。上がった悲鳴に、外へと飛び出したケチャップ名探偵たちだが……?



◇◇


「きゃーっ! めっ、おやめなさい、こらっ、ビネガーちゃん!」


 ペットのビネガーちゃんを叱りつけているのは、色白が美しいソルトである。


 このご婦人は、ペットのビネガーちゃんを肩に乗せて散歩するのが日課だったのだが、いきなりビネガーちゃんが肩から飛び立ち、茂みに入っていき、何やら汚らしいゴミをくわえて放さなくなったのだ。


「トリあえずっ、トリあえずっ」

「何がとりあえずなのビネガーちゃん。いいからそんなもので遊ぶのはやめなさい、こらっ、めっ」


 鳴いている球状のフクロウっぽいトリ。この子がビネガーちゃんである。片言だが言葉を話せる賢いトリだ。


「なんだ、ソルトにビネガーじゃないか。叫んだのはどっちだね?」


 悲鳴を聞きつけ外に出たペッパー警部だが、予想外の人物たちを見て驚く。ソルトはペッパー警部のおくさんなのだ。


「わたしに決まってるでしょ、ペッパー。あなたがこの近所でお仕事中だと聞いて立ち寄ろうとしたんだけど、ねえ、見てよ。ビネガーちゃんが茂みから変なものを見つけてきて放さないの」


「トリあえずっ、トリあえずっ」


 必死に何かを訴えているのである。


「おやおや。一体その透明なチューブは何、( ゚д゚)ハッ!」


 ペッパー警部に続いて外に出てきた右利きのケチャップ名探偵だが、ビネガーちゃんがくわえて「トリあえずっ」と叫んでいるものを見て、驚愕した。


「それはマヨネーズのチューブボトルではありませんか。中身が絞り出されてカラですが、その赤いキャップに下膨れのボトルの形状。まさしくマヨネーズです」


「まさか。チューブボトルならケチャップの可能性だって」


 騒ぐビネガーちゃんからチューブボトルを奪うことに苦心しつつ、ペッパー警部がいう。しかしケチャップ名探偵は「いいえ、ケチャップはもう少し角ばっているのです」と否定した。


「それに見てください。わずかですが白っぽいとろみのある液状物質が付着しています。マヨネーズです。もしかして」


 嫌な予感がする。ケチャップ名探偵の表情がくもる(ただし顔面が赤いためわかりづらい)。


「トリあえずっ、トリあえずっ」

「ああ、そうだね、ビネガー」


 ペッパー警部はビネガーちゃんを抱きかかえると、ソルトの肩に乗せた。


「とりあえず鑑識に出しましょう。この無残にもカラになったマヨネーズが、左利きのマヨネーズ氏でないことを願いますよ。まだ夜になってないんですからね」


 怪盗タルタルが提示した期限は夜だ。それまで時間がある。


「ケチャップさん、元気を出してくださいよ。いつもの冴えはどうしたんです」

「もちろんです、まだあきらめてません。でも……」


 どうにも嫌な予感がするのだ。ケチャップ名探偵の真っ赤なリコピンの働きが今回の事件ではとても鈍いのだった。


「まったく冴えません。ちっともギャグも浮かびませんし。お手上げですよ」


 トマトってる暇はない(戸惑ってる暇※コメント欄から拝借しました、元は手間取ってる)、くらいが精一杯なのだった。



(右利きのケチャップ名探偵の事件簿⑦に続く)

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