ニューヨーク1946年

 大陸横断列車が走り出す。緑濃い町を出て行く。

 大陸横断列車が砂漠を走っている。

 大陸横断列車が、雪の降る大都会を走っている。

 グランドセントラルのホームに、ゆっくり、ゆっくり、大陸横断列車が入ってくる。

 大陸横断列車が止まって、ドアが開いて、ドナルドが軍服姿で大きなカバンを3つ持ってホームに降り立つ。あたりを見回す。

 少し離れたところで、ママが、ぜんぜん違う方向を見回している。ドナルドが大きな声を出す。

「ママっ!」

 ママが振り返ってドナルドを見る。泣きそうな顔をしている。ドナルドが急いで近づいていって話しかける。

「ママ、ニューヨークは寒いね」

 ママは、急にドナルドの腕や足を触りはじめる。あちこちを触る。

「だいじょぶかぃ? どこもケガしなかったのかぃ?」

 ドナルドがママを、しっかりと、力強く抱きしめる。

「ママ、ただいま」

 ママがビックリして、次に嗚咽を洩らし始める。

 ドナルドは、長い間ママを抱きしめている。ママは、大きな泣き声を上げている。二人の向こうに、雪が降っているのが見える。


 (了)

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米国海軍日本語情報将校ドナルド・キーン ジユウヒロヲカ @hirooka10

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