七番目

「ねえ」


揺さぶられて目を覚ます。

身を起こしても誰もいない。


確かに誰か……、小さな手の感触が。

「起きた?」

声だけがした。


見渡しても誰の姿も見えない。

ここは──金の……、繭?

「誰か、いるの?」

「ここ」


触れられた。見下ろす。

何も、ない。

けれど掴んでいる、小さな手を。


「いるの?」

「うん」

「あなたは……透明、なの?」

「見えた方がいい?」

「いい、けど、できるの?」

「母さんは、見えない方が好きみたい」


半ば透き通った子供の姿が表れる。

「あなたは、幽霊?」

「七番目」

声に聞き覚えがある。

「わたしを包んでいたのは、あなた?」

「そう。隠しなさいって、母さんが」

「母さんってカーリア?」

「その名前は嫌いだって」


町の柱姫は子どもがいるのか。

異世界婚だから子どもが透明なのだろうか?

まじまじと子どもを見つめる。


「この姿は、嫌い?」

青い髪の毛の少年の姿をしていた幽霊が、今度はお下げ髪のそばかすの背の高い少女になる。

半透明でなく、くっきりした姿。


「あなたは自由に姿を変えられるの?!」

少女がこっくり頷く。

「うん、七番目だから」

「七番目は特別な子どもってこと?」

「七番目はお父さんに見つかると、心臓を食べられてしまうの。だから隠れていられるように姿を見えなくしたり変えられるんじゃないかな」


「食べる? お父さんってイェレト? 魔術師は子どもを食べるの?」

「七番目だから」

「それ、あなたの名前なの?」

「母さんはギーって呼ぶ」

「じゃあ、それがあなたの名前ね。ギー」

子どもが嬉しそうにする。


「七番目ってことは他の兄弟がいるの」

「ここにはいない、魔術師は皆町の外に現れたみたい」

「魔術師って──あなたも魔術師、なの?」

「うん。七番目の末果まつかの魔術師」

「カーリアは七人の魔術師の子どもがいるってこと?」

「祀られたから。ねえ、その名前はお母さんに怒られるよ」


「他の名前があるの?」

「柱姫は名前がないって言ってた。でも祀られて、盗まれて被せられたって」

「何を?」

「魔術師が持ってた日世の皮と名前」


…………。



事柄の整理整頓と理解がすぐには追い付かない。

「ちょっと、待って。待って。カーリアは、魔術師の日世の名前? イェレトの日世?」

「そう」


アトリの説明によれば、日世と夜世は存在を分かち合っている。

イェレトは昼も夜も姿が変わっていなかった。


「カーリアは、いえ町の柱姫は昼も夜も変わらないという存在を盗まれて、それでイェレトの日世の姿を押し付けられた? あの姿は元の彼女ではないの?」

「嫌いって言ってた。顔も声も、全部」

「どうして?! そんな酷いことを?」

「魔術師だから」

「他の魔術師も同じことをするってこと?!」

──つまり、アトリも?


突然、不思議な感慨に襲われる。

つまり、わたしはヨナになる?

何者かわからないままのわたしが、何者かであることを求めて蝶を追ったわたしが、彼女に?

自らを傷つけてまで、アトリに会いたがっていたヨナ。

わたしは……彼女の、願いを叶えることができる?

「いえ、でも、本当の、元々の日世カーリアは彼女の中にいるの? わたしが昼間会ったのは、柱姫じゃなかったの?」

「ううん、母さん」


──元のカーリアは、消えた?

同じ事をアトリがするなら、ヨナが消えてしまう?

アトリはヨナを大切にしているように見えたけど。

でも、夢のような世界であっても冷然とした理が存在しているようだ。

妙な生真面目さがあるアトリはそれを肯定する気もする。


途方に暮れた。

「どうしよう……」





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綴り夜 日八日夜八夜 @_user

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