町の夜6
魔術師を塔の深層へ突き落とした。
イェレト以外の魔術師は騙しやすいし、自分に隙をつくりやすいことは学習していた。
魔術師だから簡単には死にはしない。
殺したと思っても次の夜には再生する。
が、上がってくるのは困難だろう。
もうすぐ朝が来る。
魔術師の日世であろうと、日世は大概無知で無害で無力なのだ。
心臓は取り返した。
さらに重要なことに武器も取り上げた。
──あいつを殺せる武器も。
魔術師の武器は破壊霊を殺せるが、神と称する魔術師も殺せる。
ふうわりと美しい笑みが浮かぶ。
やっと、願いが叶う。
厄介なのは、向こうも武器を持っている点だ。
だがあいつはわたしから全てを取り上げて、わたしを侮っている。
隙はいくらでもある。
それに七番目によって少しずつ力を取り戻していた。
あの子は従順だ。
あの子はイェレトに見つかることなくどこへでもいける。
七番目ははじめから一者として現れる。
姿は安定していなかったが、昼も夜ももう一つの人格が現れることはなかった。
だが魔術師としての再生力も持ち合わせる。
バラバラにされ町のあちこちに埋められた自分の一部を目立たないところから、七番目のものと部分的に入れ換えた。
イェレトは定期的に見回るから、おおっぴらには出来ない。
さらに性癖なのか、そういうものなのか、埋められたものをわざわざ取り出して眺めていることもある。
細心の注意を払って回収と入れ替えを部分的に行った。 自分の気配に紛れ込ませるように。
尖らせた矢の先端。
今夜またイェレトは戻ってくる。
※※※
アトリは毒づいた。
腕が折れている。
自分の痛みよりその事に苛立つ。
周囲の壁を変化させようと試みたが、さすがに無駄だった。
造ったのは神となったイェレトだし、ここには柱姫がいる。
存在は堅固鉄壁だ。
こんな場所で目を覚ませば、ヨナは困惑どころではないだろう。
さらにイェレトに確実に遭遇する。
言い訳が出来ない場所だ。
神盗人として処される。青ざめた。
何度も何度も殺される。存在が消えるまで。
何度も何度も、ヨナが致命傷を負って目を覚ます。──吐きそうになった。
なんとしてでも、ここからでなければ。
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