考えすぎる男
タカナシ トーヤ
考えすぎる男
僕には三分以内にやらなければならないことがあった。
僕は今、就活の二次選考の真っ最中だ。
試験官がA4サイズの紙を一枚、裏返して僕の目の前に置いた。
「では、今から3分間で性格検査を実施させて頂きます。問題は、全部で5問です。深く考えずに、直感でお答え下さい。タイマーをセットさせて頂きますので、アラームが鳴ったら終了してください。早く終わった場合は、時間までお待ちください。それでは、お願いします。」
—2:59—
第一問
「あなたは、物事を深く考えるほうですか。」
はい。とてもよく考えます。◯。
—2:56—
第二問
「あなたは、今までに、嘘をついたことがありますか。」
えぇっ!?あるに決まってるだろ!でも、◯にしたら、僕は嘘つきですっていってるようなもんだよな。でも、×にしても、嘘つきですっていってるようなもんだ。どうすりゃいいんだ。うーん。
でも◯にしても×にしても、嘘つきになるんだったら、×にするか。嘘つき宣言するよりは、ましだ。
—2:30—
第三問
「あなたは、自分を正直者だと思いますか。」
はい。◯
—2:28—
‥ん?待てよ?僕、上の問題で嘘ついてるよな。本当に正直者か?嘘つきじゃないか。じゃあ、ここは×にしたほうがいいんじゃないか。でも、それだとまたここでも、僕は嘘つきですと宣言することになってしまう。どうしよう。だったら、前の問題を◯にしたほうが、整合性がとれるんじゃないか?
—2:09—
第二問に戻って、、と。
「あなたは、今までに、嘘をついたことがありますか。」
×を消して、◯にする、と。よし、これで正直者だ。
—1:40—
第四問
「あなたは、一度決めたことを、最後までやりとおしますか。」
まぁそうだよな。◯
—1:38—
ん?でも僕、今回答変更したよな。一度決めたことを、最後までやり通してない。だめだだめだ。×じゃないか。でも、×にしたら、最後までやり抜くことができないやつみたいでよろしくないな。ここは、◯にするしかないよな。じゃあ、さっき変えた回答を、元に戻そう。そうすれば、一度決めたことを変えていないことになる。
—1:10—
第二問に戻って‥と。
「あなたは、今までに、嘘をついたことがありますか。」
◯を消して、また×に戻すと。よし、これで元通りだ。一度決めたことは、変えていないことになった。
—1:05—
あれっ、でもなんか、今回答を変更した僕は、正直者ではないような気がする。やっぱり、第三問の正直者ですは×にしたほうがいいかもしれない。
でもそうすると、また、第四問の「一度決めたことを最後までやり通す」が嘘になってしまう。まいったな。どうすりゃいいんだ。
よし、いったん第三問と第四問の回答は消して、最後の問題を先にやろう。
—0:45—
第五問
「あなたは、問題を先延ばしにしますか。」
いや、解決したい派だ。×。
ん?でも今さっき僕、第三問と第四問を先延ばししたよな。×じゃない、◯だ。
でも、これじゃあ仕事の締め切りを守らないやつみたいで、印象が悪い。やっぱり×のほうがいい。
でもそうすると、第三問と第四問を先にやらないと整合性がとれない。
—0:30—
うそっ!?あと30秒!?大変だ、全然終わってない!!!
整合性のことを考えていたら、もうキリがない。いったん全部消そう。
そういえば、試験官は最初に、「深く考えずに」って言ってた。そもそも深く考えること自体が間違いだったんだ。
僕は全ての回答を消した。
—0:10—
試験官が近くにやってきて、アラームを止める準備をした。
僕は、"深く考えずに"上からランダムに回答した。
第一問 ◯
第二問 ×
第三問 ×
第四問 ×
第五問 ◯
------
「さっきの応募者、どうだった?」
「アラーム止めに行ったら、何も書いていなくて、あわてて適当に回答していました。深く考えるに◯ついていますが、考えていなそうでした。」
「でもさ、何回か消して書き直した跡がある。深く考えた結果がこれなのか?どっちにしても、今回は見送りだな。」
--------------------【完】--------------------
考えすぎる男 タカナシ トーヤ @takanashi108
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