学園生活編

アル 入学試験を受ける

 ステム王立学園···ステム王国の首都から馬車で半日程の距離に存在する巨大な学園であり、学園を中心として都市が形成されている。


 そんな学園では十歳から十六歳までの六年間教育を受けることで一人前の魔法使いを育成する事を教訓として掲げている。


 まぁ貴族にとっては魔法よりもこの学園時代に培う友好関係の方が大切かもしれない。


 トロン子爵領から馬車に揺られること十数日、幾つもの領を抜けて、学園都市に到着した。


 学園都市は魔法使いの街とも言え、魔法が盛んに使われている。


 物を運ぶのにも魔法。


 花に水を与えるのにも魔法。


 中には魔獣を使役する見世物小屋があったり、魔法で動く便利な道具やゴーレムがそこらで歩き回っている。


「おお!」


「アルもそんなにはしゃぐ事があるんだ」


「ライラ、俺は屋敷の外に出ることが稀だし、こんなに栄えている街は物語以外にも存在するんだな!」


 ライラに俺は興奮気味に語る。


 街の中には名前+塾と言った建物も多く、私塾と呼ばれる場所だとわかりやすい。


 学園に到着すると、まるで宮殿の様な美しく、壮大な建築に俺は驚いた。


「ここだけ別の世界と言われても納得しそうだ」


 試験は受付をしたら直ぐに受けられるとのことで、俺とライラは別々の会場で試験を受ける。


 貴族と平民は試験会場からして違うらしい。


 自分の名前を記入して、列に並んでいると奥の方でピカピカと光輝くのが見える。


 光の色が違うのでたぶんあれが魔力測定機なのだろう。


 観察していると青、赤、茶が殆どで、黒、紫、青の三色に光った人は項垂れながら列から外れて来た道を引き返していく。


 これはジュンさんから言われた試験に落ちた人達なのだろう。


 時折黄とか白に光ると周りから歓声が上がる。


 黄以上が優秀という扱いか? 


 俺の順番が近づき、測定機が見えるようになったが、魔力球というだけあり、巨大な水晶の様な物が鎮座している。


 それに手を触れ、魔力を流すと光り、魔力総量を色で表す仕組みだ。


 魔力球を観察していると金色に魔力球が光りだした。


 俺の二つ前の少女が光らしたらしい。


「素晴らしい! 金色は今年度は平民だと初だ!」


 と試験官の様な人物が叫ぶ。


 少女はさも当然と言う風に堂々としている。


 金色と言えば虹の一つ下で、虹が魔王や勇者等の産まれながらに違う人達なので、実質金色が俺達にとっては最高位である。


 その金色が出たので周りのざわつきも大きい。


 次に手を触れた男子は銀色に光りだした。


 連続で良い色が出たので俺も白くらいには輝いて欲しい。


 そう願いながら装置に手をかざして魔力を流し込むと緑色に光りだした。


「うん、普通よりは多いな」


 と試験官の方に言われ、合格圏内ではあるが少し悲しくなった。


 まぁ緑色は最低値の赤より二つ程上の位なので、俺の魔力総量は少なくは無いはずだ。


 合格した者は更に奥へと進められ、広い部屋に連れてこられた。


 見るとゴーレムが動いており、動くゴーレムを魔法で破壊できたら試験は合格らしい。


 よくゴーレムを観察するが、あれは焼入れを行っていない石材製のゴーレムで、このタイプであれば関節を破壊すれば一気に瓦解するのがわかる。


 ゴーレムの動きはゆっくりだが、動いていることから初心者であれば狙いを付けにくいだろう。


 先程金色を出した少女は炎と風の複合魔法である火災旋風を生み出し、ゴーレムを破壊していった。


 続く銀色に輝いた男性は『ウォーターボール』と言う水の塊をぶつける魔法で、ゴーレムを転倒させて破壊していた。


 俺の順番になったので、俺は試験官によって生み出されたゴーレムに向かって魔糸を飛ばし、一瞬で細切れにした。


 魔糸は細くて見えにくい為、後ろから見ていた受験生達や合格したため待機していた受験生達も俺の攻撃に驚いている。


 どうしても周りの視線があるので派手な攻撃を好まれるのかもしれないが、最小限の魔力で最大の結果を求めるならばこれに限る。


 試験官から合格が言い渡され、俺も待機の列に並ぶ。


 すると金色に光らせた少女と銀色に光らせた少年に話しかけられた。


「凄い魔力操作だ。何をやったか見えなかったよ」


「魔糸で岩を切断するなんて相当な技量ね! あんたも貴族付き人って感じ?」


「まずは自己紹介をしましょう。俺は···いや、私はアル。トロン子爵のライラ嬢の使用人です」


 すると金色の少女の方が


「なーんだ、やっぱり貴族の手つきだったわね。私はリーネ·ボルト···騎士の娘で一応貴族階級だけど、この学園では男爵の子供以上じゃないと貴族扱いされないからこっちなの」


 赤メインで所々にオレンジのメッシュが入った髪色をした八重歯が特徴的な少女は大きな胸をそって自慢げに話す。


「僕はグレーナ。カメロン男爵のお子さんのイワン·カメロン様の付き人なんだ」


 男子の方は銀髪の長い髪を後ろで紐で結んでポニーテールの様にしている。


 中性的な顔立ちなため普通に似合っている。


「こうして喋ったのも何かの縁だし、協力しないか?」


 俺はそう提案する。


「ええ、良いわ。私は貴族と平民の中間だから比較的自由だし、魔力総量も多いから色々と融通は聞くと思うわよ」


「僕もご主人と敵対しないのなら別に良いかな。協力関係を結べるのなら結びたいし」


「なら俺からは魔力の操作や魔力の抑え方なんかを提示しようと思う」


「魔力の抑え方? 知ってどうするの?」


 リーネの問に俺は答える。


「魔力も無限じゃないだろ。いかに効率的に魔力を使うかってのを突き詰めればより多くの戦果を得れるんじゃないか? 防御魔法たぶん『バリア』一辺倒だろリーネさんもグレーナも」


「アルは逆にバリアは使わないのかい?」


「使わない。使う必要がない···俺の場合生命線が魔糸だからな。最大火力が出る前になんとかしてしまうな」


「なんとかって?」


 グレーナが聞く。


「物騒かもしれないけど魔法が発動する前に相手の指を切断するとかすれば魔法はキャンセルされるし、例え魔法が使われても魔糸を蜘蛛の巣の様にすれば大抵の攻撃は防げるんだよ。勿論さっきのリーネみたいな超高火力となれば話は別だけど」


「あの切断力と見えにくさなら先制攻撃を許したら指どころか体が細切れにされるんじゃない?」


「というか俺は魔法はいかに先手を取れるかの勝負だと思っているからな。守りよりも攻撃に重きを置いているし」


「戦闘スタンスまで決まっているのか···そういうのは学園や塾で身につけると思っていたから僕はとにかく出力だけ鍛えていたからなぁ」


 グレーナが言う。


「それでもいいんじゃないか? この試験に受からないと始まらなかったし」 


「あ、ちゃんとあんた達のご主人に私を紹介してね! 特にアル! 子爵なら自前の騎士団を持っていると思うから上手くいけば私を騎士団にねじ込んでもらえるかもしれないし!」


「リーネの魔力なら宮廷魔導士狙えるんじゃないか?」


「嫌よ。下手に階級が上がるとそれだけ出費も嵩むの。うちみたいな領土を持たない騎士階級の人が宮廷魔導士になったら初期投資で破産するわよ。余程のパトロンが居ないと無理だし、そういう貴族は小さい頃から優秀な子供をキープしているのよ。幾ら魔力総量が多くても幼少期から英才教育されてきた天才達には敵わないわ」


 とリーネは言う。


 下っ端貴族も立場ゆえの苦悩があるらしい。


「それに私は女だから最終的に子供を成す事になるから騎士としての寿命も短いの。だからそれまでに基盤を作らないと行けないから売り込みに必死なのよ。あんた達はご主人を支えていれば安泰なのだからその立場を守る努力をしなさい」


「リーネさんはそう言いますが、僕のイワン様も三男だから家を継げる可能性は低いし、将来的には冒険者になってしまうかも···」


 俺はこの場でそのうち今の地位を捨てて冒険者になりたいとは言えなかった。


 なんだかんだ二人とは長い付き合いになりそうだ。

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〜捨て子の王子〜勇者にはなれないけど英雄を目指したいと思います! 星野林 @yukkurireisa

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