ついついヤッちゃった(テヘッ★)浮気男の亡骸を、三分以内にどうにかすることは可能であろうか?
初美陽一
三分は果たして誰のものなのか
私こと
つい先ほど彼氏を、フライパ……いやフライパンのようなものでフルスイング、思い切り頭を
……あ゛~~~~~……。
「あ~、やっちゃったなぁ……あ~、あ~……あ、あ、あ、あああああ」
人間、取り返しのつかないことをしでかすと、こんな感じになるんだな。リアルの反応ってこんななのね。フフッ。ウケる。
いや笑えないわ。マジヤバイわ。何がヤバイって、時間、時間あと三分しかないんだって。
コイツのスマホの通知にさっき〝姉〟って人から〝もうすぐマンション着くよ~、今から上がってくね~☆〟って短いメッセージがおおおうわあああああ。
とにかく、あと三分! ここはこの浮気男の……カスオでいいや、仮称カスオ。
ここはカスオの家、ワンルームマンションの10階。マンションに着いてすぐなら、エレベーターでも1階から10階のこの部屋まで、約3分。何度も通った私は、良く知っている。
その間に、この
でもね、フフッ、聞いて? ちょっと聞いて? これだけ聞いてから判断して?
100回以上。……うん、何の数字かってね?
浮気の回数、延べ100回以上。
付き合い始めてから三ヶ月の内に、100回以上。
……おかしいだろ! 単純計算〝三ヶ月=90日〟としても計算に合わねーわ! 一日の内に2回以上も浮気してんぢゃねーかッ!!
カスオ呼びも仕方ないでしょ!?
あっ今年、
とにかくそんな
このような桁外れの回数の浮気という蛮行が、私こと貴子から〝自首〟という選択を奪い去ったのであった……★
「―――であった★ じゃねーわーーーっ! こうしてる間にも時間が過ぎてくんですけど!? タイムリミットあと何分!? 1分経った!? うおおお2分くらいか残り~!? どうしよ、どうすればいいの!?」
右往左往する間にも過ぎていく時間が、焦りに拍車をかけている気がする。
とりあえず
じゃあ居留守……いや、直前までスマホでやり取りとかしてたら、むしろ不自然か……そだ、コイツのスマホ指紋認証じゃん、解除して確認すれば……いやでも、人のスマホを勝手に見るのは、気が引けるって言うかぁ~……。
「ってブッ殺しといて今さらよね~。ハイ、ロック解除~♪ チッ、きたねぇ手だぜ。はてさて、メッセージのやり取りは~……うん、うんうん……うん……!」
〝姉〟という人とのメッセージのやり取りを確認し、私はニッコリ微笑んだ。
「ガッツリ連絡とってるわ~……ご丁寧に〝夜まで家いるピョン♡〟とか送ってるわカスオ……つか自分の姉にこんなメールしてんの気持ち悪いな地味に……あああ、もう、あああ……もおおおお」
居留守作戦、不可★
どうしたものか、どうすればいいのか……そうだ十階なんだから、ベランダから落として自殺に見せかけ……いやマンションの防犯カメラとかに私めっちゃ映ってるだろうし、疑われるわ真っ先に。このタイミングでってのも不自然すぎるし。
てか私の発想めっちゃ物騒になってるな~、衝動的とはいえ一人ヤッちゃっただけで変わるもんだな~、ウフフ★
「とか考えとる場合かーーーっ! もうあと1分くらいしか無くない!? あれっ思ったより時間経ってないな、アレか〝貴子の思考、この間ゼロコンマ何秒〟とかか! 限界超えると覚醒するもんだな~人間、って言っとる場合かーっ! どうしよ、居留守ムリ、隠すのも無理、あと1分ちょっとで……ん? ……あれ、これ……ん?」
ここで私、貴子、気付いちゃいま~したっ★
詰んでるわ。
無理だわ。どう考えても無理だわ。どうしようもねーわ。
この三分間、ただただ〝無理の立証〟でしかなかったわ。
ああ……なぜ、なぜこんなことになってしまったのだろう……。
出しっぱなしのコタツに座り込んだ体勢で、テーブル部分に突っ伏した頭から血を流す、白目を剥いた
そうだ、コイツは心底カスオだったけれど、何も全てが悪い想い出ではない。
カスオと過ごした三ヶ月が、まるで走馬灯のように、私の脳裏を掠めていく――
『えっ、大学のゼミで隣の女の子と仲良さそうだった? いやただの友達で……えっ手ェ絡めてイチャイチャしてたの見えた? ……スイマセンでしたァァァァ!!』
『えっ、バイトの子と仲良さそうに見える? オイ失礼だろ、仕事仲間と仲良くするのは当然で……えっキスしてたの見た? ……スイマセンでしたァァァァ!!』
『えっ、隣の部屋のセクシーな未亡人? ……スイマセンでしたァァァァ!!』
『スイマセンでしたァァァァァァ!!!』
改めて色々と思い出してみたんだけど、やっぱカスオってクソだわ。
だからさ、こんな奴のために罪とか罰とか、倫理の問題すら度外視して、耐えらんないってワーケッ★
というわけで、何かこの状況を打破する、冴えたアイデアお願いしま~すっ★
「とか思い出したりしとる内に時間ーーーっ! ウワアアアもう三分経つ! 無理、ちょもう無理どうしようもねーッ! ……ヒッ!? こ、コイツのスマホに、またメッセージが……〝姉〟からだ。え、ええと……」
〝今、アナタの家の前にいるの〟
「ギャーーーーーーーー!!
絶体絶命の窮地に、閃いた――最後の手段。
「―――コレしか、ない―――」
この状況を切り抜けるため、私が思いついた手段とは――
▼ ▼ ▼
玄関の
「ちわーっ★ 遊びキタよーっ、あ、ドモドモ~★」
「コ、コンバンハー。え、えっと……私、
「お姉さんメッチャ可愛いっしょ~★」
(いや自分で言うかそういうの? あの弟にして、この姉ありって感じだな)
呆れる反面、何となく納得してしまう。
と、ギャル子さん(仮称)が遠慮ナシで部屋に踏み入ってきた。さすが家族の距離感というべきだろうか。
だが、ぼんやり見送ってもいられない――慌てて追いかけ、私は座ってコタツに入り込む。……カスオのすぐ隣に。
ギャル子さんも荷物を置いてから、少し遅れてコタツに入りつつ、見た目通りの明るい口調で告げてきた。
「おハナシ、よく聞いてるよ。仲良さそうで羨ましいっていうか~★」
「えっ。カス……こほん。こ、この人、私のコトをそんな風に……?」
「ウン。しょっちゅう殴ってくるバイオレンス・クソ女だって★」
(殺すぞカスオ。あっもうヤッちゃってるんだった、テヘッ★)
テヘッ★
……さて、そんなことよりも、本題である。
カスオのお姉さん、ギャル子さんが――弟の様子を、訝しんできた。
「ん……? ……ていうか何か、いつもと違って大人しくない? グッタリしてるし、何か顔色も悪い……っていうか、青白いような……」
「…………!」
今だ―――ここで私は、先ほどの(大半を無駄に費やした)三分間の内に思いついた、とっておきの秘策を繰り出す――!
『ソンナコトナイヨ! オレ、ゲンキダヨォー! アッハーーー!!』
「………………」
そう。
―――腹話術である―――!
ちなみに、経験とかは特にない。
ぶっつけ本番である。
そんな私の瀬戸際の怪演に、ギャル子お姉さんが見せた反応は――!?
「……なんか、全然別のトコから声、聞こえない? 声も思いっきり変だし……」
『ギックゥーッソソソンナコトナイッテェー! コッコレハホラ、風邪気味ッテイウカァ! ホラマダ、肌寒イシ~~~!』
「そ、そうそう! だから無理させないように、答えられるコトは私が答える~!」
「そ、そお? ホントに仲良いね~★ ……うん、ていうか……やっぱなんか、変な雰囲気じゃね? 部屋も、アレ……」
室内を見回しながら、ギャル子さんが言及するのは。
「……アレ、何であんなトコに置いてんの? あの……フライパン――」
「フライパンではありません、決してありません。フライパンに形が良く似ているだけの、フライパンのようなものです。オブジェだから、飾るのは当然なのです。お分かりですか、人の子よ――」
「女神か何かなの? ていうか、何か……凹んでるんですけど。まるで人でも思い切り殴ったかのように……」
「それは、アレです……その
「あ、ああ、そうなんですか。……ていうか、その……」
続けてギャル子さんは、当のカスオの――顔面を指さし、問いかけてきた。
「……なんか頭から血ィ流して、白目剥いてる気が――」
「ああ、何かパンクなファッションにハマってるんじゃないですか?」
「あ~納得~★」
後になって、何でこの言い訳でイケると思ったのか自分でも不明ですが、なんかよく分からんがイケました★
さて、順調(?)に会話が進む中――不意にギャル子さんが、真面目な顔をして。
失礼ながら似つかわしくないほど、真剣な口調で、私に言ってきた。
「あの―――お姉さん」
「は? ……えっ、いやお姉さんって、アナタじゃ――」
「お姉さん―――アタシ、彼と付き合わせてもらってます!」
「は? ……はあああああああああああっ!!?」
叫びながら私は、嗚呼、全てを理解した――食い違ってたんだ。
このカスオ、このギャル子さんのコト、フェイクで〝姉〟って登録してたんだ。
ついでに言えば、私のコトは〝姉〟としてギャル子さんに伝えていたらしい。
「……あの、私、違います……〝姉〟じゃなく、付き合ってたんです。彼……いやもう、カスオでいいや。このカスオと」
「は? ……はあああああ!? ちょまっドユコト!? え……は!? スマホ、ちょ……いやアタシんこと〝姉〟って登録してんじゃん! 誰が姉だっつの!」
「ホンット、カスね……ん? ちなみに私のコト、何て登録してんだろ……え~い、メッセージ送信~♪」
「おっキタキタ。……あの、アンタ〝情緒不安定バイオレンス女子力(物理)〟って出てきたんですケド……」
「また殺すぞカスオ」
「また?」
「あっ何でもないですぅ~、テヘッ★」
「おお、確かに情緒不安定っぽいね~……ヤバ★」
余計なお世話じゃい、と思わなくもないけど、誤魔化せたみたいで良かったです★
と、そんな風に談笑(??)していると――思いがけぬ事態が。
「ねェん、ちょっとぉ……コレどういうこと!? アナタ……浮気してたの!?」
「へっ!? あ、アナタは一体……誰ですか、急に!?」
「隣に住んでいるセクシーな未亡人ですけど!?」
「自己紹介にしては尖りすぎだろ!!」
と、ツッコんでいる内に――想像を超えた、とんでもない事態が次々と訪れる。
『ちょっとー』『どゆこと!?』『忘れ物のフライパン取りに来たんですけど~!』
『『『ワーワー、キャーキャー!』』』
「ちょ、待って待って待って……待って、何で? 何人いるの、コレ……外から、まだまだ聞こえてくるんですけど……?」
私が戸惑っていると、ギャル子さんが彼女達の脇を抜けて、玄関先から外を確認し――戻ってきて、伝えてくれた。
「なんかね~、ガンバって数えてみたんだけど~……アタシら入れて、108人くらいいたわ★」
「水滸伝か!!」
『やあやあ、我こそは――!』
「水滸伝か!!!」
このカスオ、100回以上の浮気を、まさか、どうやら……それぞれ別の人と、やらかしていたらしい。そんな話ある?
ていうか、外からめっちゃ声、聞こえてくるし。
『ちょっとぉ、浮気って……なに、どういうことなのぉ!?』
『わたしだけを愛するなんて、嘘だったのね……呪うわ……』
『お、おまえには俺だけって言ったクセに、嘘だったのかよっ!』
『説明してよ……ねえ! この、このっ……カスがッ!!』
「うわあ、まだまだ聞こえ……ん? ……んん!? いや今、男もいなかった!? どうなってんだこのカスオ、浮気しないと死ぬ呪いでもかかってんのか!?」
「あるいは、108人と浮気すれば手術を受けると約束した病気の少年がいる可能性が、
「捨ててしまえそんな約束!!」
私が重ねてツッコんでいると、この事態に(当たり前だけど)困惑したギャル子さんが――自身の頭を押さえるや、思いがけない行動を取る。
「……もう、もう……アタシ、耐えられない……許せないっ! 殺してやるっ……この包丁……のようなもので、アンタを殺してやるわ! この……カスオッ!!」
「おっ?」
「償えっ……死んで、償えぇーーーっ!」
「おお……」
おお。……おお。
さて、そんなギャル子さんの行動が皮切りとなったのか――彼女以外の被害者一同も、持参していた包丁のようなものを取り出し、構えを取った。ていうか持参してきたんだ皆、ヤバ。
『え~~んっ、アンタなんて大嫌いっ! このカスが!』
『ふえぇ、当然の報いと知れよぉ……
『悪・即・斬……悔い改めよォォォ!』
「おお……おお。おお……」
おお……おお。うん、うん……うん。
……よし。
皆、思い思いに刺し終えたところで、私は――
「―――やめて皆! 気持ちは分かる、分かるけど、でもっ……そんなコトしたら、彼が死んじゃうよおッ!」
「止めんのメッチャ遅くない?」
「そこはほら、私、か弱い乙女だしビックリして……」
「情緒不安定バイオレンス女子力(物理)なのに?」
「それはこのカスオが勝手に言ってるコトだから」
ギャル子さんのツッコミは、まあ置いといて。
さて。
何ということでしょう、カスオは……彼は浮気の報いを受け。
被害者御一同から圧巻のメッタ刺しによって死んでしまった――
気持ちは分かる、分かるわ……だからこれは仕方ない、ウフフ仕方ない。
いやあ、人生、思いがけない展開があるもんですなガハハ、とか思っておりますことよ―――と、その時。
カスオが。
「………う、う~ん………イテテ、何か痛いし、騒がしいな……?」
「キャアアアアアアアアアア!!!?」
い、い、い…………
生きとったんかワレェ!!!!
……何ということでしょう。
私が三分以内にやらなければならないことは、
浮気男の生死の確認だったようです―――
「……いや、っていうか! ちょっとカス、アンタ何で生きてんの!? 皆に刺されまくって、包丁のようなもので全身ハリネズミみたいになってるけど……」
「オッ? へへっ、これくらい大したコトないぜっ! まあこれくらいタフでもないと、100人以上と浮気とか出来ないっつかね(笑)」
「今度こそ殺すぞ」
「今度こそ?」
「うるせぇ。……で、カスオ、アンタさぁ」
「カスオって俺のコト? ……ていうか俺のマイハニー達、なんか変な雰囲気なんですけど~! どったの、この空気。クーデター前夜?」
この状況で呑気なことをほざく浮気の
「三分、くれてやる―――何か弁明があれば、ほざいてみせよ」
「……フッ、三分? 愚問だぜ……俺の言うコトは、ただ一つ!」
ほう、潔い……さて、そんなカスオが述べたことは――
「ここに、俺の―――ハーレム梁山泊を作ろうぜッ★」
「………………」「………………」
『『『……………………………』』』
なるほど、素晴らしい答えだ―――完全無表情で沈黙する面々を、またまた代表し、私は微笑みと共に言った。
「ああ、悪くない答えだぜ―――だがここには、
「ハッ!? ちょ、ちょっと待っ、みんな……何でそんな殺気立って、寄ってくるんだ……お、俺が何をしたって――」
「何をって明らかすぎんだろって思うが、せっかくだから答えてやる。
三分もいらない、シンプルな答えだ。
――
「や、やめろっ、それ以上……俺に近寄るなぁぁぁ―――ッ!!」
そうして行われた、108人もの憤怒による制裁は、果たしてどのようなものだったのかは、想像にお任せする―――が。
「―――ンッギャアアアアアーーーッス!!!」
天にまで届く断末魔の叫びを受け取った、夜空のお星様は知っている、なんて……ロマンチックすぎる締めでしょうか★
― Romantic★End ―
ついついヤッちゃった(テヘッ★)浮気男の亡骸を、三分以内にどうにかすることは可能であろうか? 初美陽一 @hatsumi_youichi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます