辰馬の銃弾

一陽吉

迫るテロリスト、そして

 辰馬たつまには三分以内にやらなければならないことがあった。


 それは武装したテロリスト三人の制圧、無力化である。


 深夜、アメリカ郊外にある利用者がほとんどいない安ホテルで身をひそめていた辰馬だったが、どこで情報が漏れたのかテロリストに居場所がバレ、襲われようとしていた。


 幸い、仲間がテロリストの動向を不審に思って注意をうながしてくれたおかげで、完全な不意打ちにはならなかったが、いかんせん、辰馬の装備は十五発装填のハンドガンとその弾倉が二つだけ。


 それに対しテロリストたちは三十発装填のアサルトライフルにその弾倉を四つずつ所持してるため、人数と火力において圧倒的な差があった。


「さあてと。普通なら逃げるか、玉砕覚悟で戦うかだよな」


 辰馬は心の中で呟きながら、照明がおとされた暗い廊下のかどで、愛銃を持ちながら様子を伺っていた。


 仮に逃げるを選択すれば、テロリストからこの場を逃れることができるだろう。


 だが、五十代で体力の衰えがある辰馬では逃げきれず捕まる可能性が高い。


 捕まれば、その後は煮て食われるか焼いて食われるかの地獄がまっている。


 そして戦う場合、テロリストに一発当てればいい方で、その火力に押し切られ、殺害されるのは間違いない。


「そんじゃ、逃げるために戦うとするか」


 そう決断すると、辰馬は角度をつけるようにして廊下の床を撃った。


 と同時に辰馬の身体からいくつかの魔力粒がとんだ。


 そして、辰馬の銃弾は床に撃ち込まれることなく跳ね、さらに長い廊下の壁、天井などを跳ねながら螺旋を描くように進んでいった。


 そこへ銃を構えながらお手本のような格好のテロリストたちが階段から現れ、その足元にあった消火器に辰馬の銃弾が命中。


 ボン! という爆発音とともにテロリストたちは吹き飛ばされ、壁にたたきつけられた。


 瀕死の重傷を負い、襲うどころか、うめき声を上げるのが精一杯だった。


「悪く思うなよ。命を奪おうとするやつは命を奪われる危険性だってあるんだからな」


 作戦の成功を確認し、声をかけるように呟く辰馬。


 小魔法使いである辰馬は、大規模な魔法こそ使えないが、自分の都合のいいように物理法則を改ざんすることができた。


 それもわずかな範囲で、時間制限があり、発動から三分しか行使することができなかったが、辰馬にはそれで十分じゅうぶんだった。


「じゃあな。あんたらから頂いた一億は俺が大切に使ってやるからよ」


 捨て台詞のようなことを考えながら、辰馬は別の階段から下りて、停めてあったバイクに乗ると、そのまま誰もいない夜を駆け抜けていった。

 

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辰馬の銃弾 一陽吉 @ninomae_youkich

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