二一二話 残りの旅路を踏破した先


 我ながら面倒な性分しょうぶんだよ。大事だいじなひとの為なら自分が粉塵ふんじんになってもいい、なんてのも相当だけど、ほいほい招待しょうたいに乗っかって敵の国にひとりで乗り込むだなんて、アホ?


 でも、今回の相手はユエにとって相性が悪いのもあり、それより虎静フージン護衛ごえい強化を優先したかったので残ってもらった。きつねは静かなおもて承諾しょうだくしてくれた。本心はどうかねえ。


 水剋火すいこくか。このことわりがあるから月に遠慮させた。亀装鋼キソウコウがどういう比率ひりつでどういう属性のしき使役しえきしていようとみずを持つ式が多いのは想像に容易たやすい。だから私なりに――。


 必要か? と問われると一瞬も間を置かず首を横振るだろう。しかし、私なりに月という私の理解者を大事に思っているからだし。それに虎静の警護けいごをさせたかったのも。


 本心で本音でかしたくない事柄だった。あのコは私にとって今最も大事な命だ。


 しんを置ける者たちに任せたい、なんて当たり前すぎること言わなくたってわかっているでしょ? ……こういう考えは傲慢ごうまんなのかもしれないが、であろうとどうでもいい。


「到着だ」


「えらい殺風景さっぷうけいだな」


「ここは普通なら入らない場所、禁域きんいきだ」


「はあ」


羅雨ルォユー様がここに連れてくるようおっしゃったからには「そういうこと」であろう」


 なんだ、なんかすっげえ思わせぶりな物言いしやがるな、この野郎。そういうことってどういうことだよ。羅雨とかいうのは聞き覚えのある名だ。私のみやで言っていた名。


 亀装鋼の皇太子こうたいしの名前。亀装鋼が禁域にさだめている地になぜ私を連れて来させたのかとか疑問は尽きない。尽きはしないものの、結構どうでもいいと感じる私がいるぞ?


 アレか。あのむらでの山ノ神を祀った禁域に捨てられた私なのでいまさら罰当たりがどうこう騒ぐのは違う、というのを思っているんだろうか。まあ、うん。そうかもなあ。


 わりかし気にしない方だという自負じふ、元々の性質せいしつはそうだったが後宮こうきゅうきさきとして研いていただいてちょっと変質したかもしれない。そう思っていたからは変わんねえか。


 なんてのを確認してつい、ほっとしてしまった。いいのか悪いのか。ただ本当に純粋に気になる。亀装鋼の禁域に連れてきてなにをしようってんだろうか、って。禁域、というからにはそこは神域しんいきかもしくは逆をいって冥界めいかいへの入口があるまさに堅くきんじし地。


 どういうことだ。私は後宮にいる嵐燦ランサン殿下の后、としてより鬼を宿した鬼娘としてここに連れて来られたと認識している。だとすれば、鬼に禁域で願うこと、とはなんぞ?


 やはり生贄いけにえ的な、人身御供ひとみごくうよろしい供犠くぎってことでいいのかねえ。ただ、わからないのはなぜ他国民をわざに使うのか、という点。そんなもの自国民で充分なんじゃねえ?


「来い、羅雨様の御前ごぜんへ向かうぞ」


「へーい」


 私がついつい生返事なまへんじ気味に応えると男たちはなにか信じられないものを見たかのようなよくわからない顔をした。なに、危機感がないだのいう話なら余所よそ他人たにんとしろや。


 たんに贄へだす(んだ、と考えているだけだが)女がひとり悠長ゆうちょうこいているだけなんだから。てめえらにがいは及ばないだろ? それとも、なにか違うのか。噛みあわない?


 いや、いいけど。どう転ぼうとどうなろうと私は約束したからには死んでも守ると決めた。四夫人しふじんとの約束。陛下方との約束。宮の者とのそして、殿下とわした約束を。


 殿下とは正確には、顔突きあわせて約束します、とは言っていない。でも一方的にであれ必ず戻る為にいってくる、と誓ったのだ。そう、誓った。だから守らなければね。


 決意を新しくして厳戒げんかい態勢で歩む男たちに連れられて禁域、とやらを歩く。山はそうなんだが奥に滝でもあるのか水の気が強い、を通り越してきつい。これは本当に月がいなくてよかったかも。きつすぎる水の気は火性かしょうのあやかしである月には毒も同然なので。


 ふとして水性すいしょうの強い私でもいそうなほど濃い気配に含まれるこれは妖気、というよりは瘴気しょうきに近い。……ともすればここは神の禁域はそうでも邪神じゃしんが居座るけがれた地か?


 それに、入口になんでもないようにいた屈強な男たちの装備からしてもよほど危険な存在がいる御山おやまなのかもしれない。が、いまさら武器を返せとはなかなか言いにくい。


 つか、本当にどういうつもりなんだろうか、亀装鋼の連中というより皇太子というのはなにが目的で私を寄越せ、と使者を宮に乗り込ませてきた? そこら辺がさっぱり。


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