悪夢は現実に在る。通常では経験し得ない数々を驚くほど具体的に追える作品

ひたひたと進んでいく物語には、常に悍ましさが付き纏います。どこに目を向けても恐怖がありました。
加害者、被害者双方の思考や感情、行動が詳細に追われているのが凄いです。あまりにも具体的に描かれた解体、極限状態におけるヒトの反応等に、特に驚きを覚えました。

物事の善悪は、何によって決まるのでしょうか。それは時代やその時の状況、各人などによって変わるものなのではないでしょうか。

戦争、過去の人体実験、実験用マウス。実在する様々なものが連想されました。
ヒトは環境に適応する生き物です。それは自らを変えていくということだけでなく、置かれた環境に慣れる、感覚が麻痺するということでもあります。
生き物は食べなければ死んでしまいます。食べるという行為は生きるということそのものであるし、他の命の上に成り立つ行為でもあります。

目的のために他者を殺す、殺しが「許される」「仕方がない」と思う、倫理観が失われる。
それは一方から見れば正気、他方から見れば狂気かもしれません。
私たちも、知らず知らず不条理に染まり、「狂っている」かもしれません。