〇〇と×× [バキコとワンズ君①]

ハマハマ

○○と××

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは相棒である××も同様だ。



 二人はこの高校の二年生。

 そう垢抜けた容姿ではないが、二人揃うと日本一オモシロい二人だと、この学校内では噂される二人組だ。


 実際のところそうなのだ。

 二人が一年生だった昨年から二年連続で出場した文化祭の出し物では大ウケだったし、常から生徒一同どころか先生方からも面白い生徒だと噂されてきた。


 〇〇と××が文化祭で行なったもの。それは二人による漫才、もしくはコントである。

 コンビ名もそのまま『〇〇と××』だ。


 そんな二人にオファーがあり、今現在、生放送の収録真っ最中だ。

 『最も自信のあるネタを披露して欲しい』と頼まれた。

 全国区のテレビ局でない、地元ローカルテレビなのが不満だが、それでも二人ともに満更でもない。二つ返事でOKした。


 場所は自分たちが通う高校の体育館。放課後なので学生たちも大入りだ。


 登壇し、初っ端で敢えて名乗らないネタの入り。

 軽い小ボケから軽くひと笑いふた笑い獲得。

 去年の文化祭で披露したネタだ。このネタなら間違いないと二人で相談して決めた。


 けれど、前回のネタを覚えているらしい観客からざわめきの声が静かに上がっている事に、〇〇も××も気付く。


 『大丈夫なの?』『やばくねぇ?』『生放送でしょ?』


 〇〇は青褪めた。

 ××も青褪めた。


 このネタのオチまでジャスト三分。

 二人はネタを披露しつつも、オチを変えるか、それともこのまま進めてするか、その決断をしなければならない。


「こないだ犬の散歩してるオジさんがいてさ〜」

「へえ、そうなん。珍しいね」

「何が珍しいの? 珍しくないじゃん」

「ごめん、オジさんの散歩してる犬かと思っちゃった」


 ヤバい。

 ネタをやりながらの決断は難しい。

 さらに勢いで誤魔化してた部分に勢いが足りない。割りと滑ってる。


 言ってる間にオチだ。


「いやホントにヤバないウチの親」

「そんなこと言って美味しいと思ってんでしょ?」

「思ってるけど、椿子つばきこって、ねぇ?」

「いや俺のとこの方がヤバいって。いくら麻雀好きやからってこんな名前つけないでしょ。俺の名前、萬子ワンズだもん」


 〇〇こと椿子つばきこ

 ××こと萬子ワンズ


 彼らのコンビ名はそれぞれ名前を音読みにして並べたもの。

 そう。ド下ネタである。


 この後のオチ、『どうも! 〇〇と××でした!』でドッカン笑いが起きてハケる。

 音読みの方だ。出来るわけがない。やれば憤死である。


 二人は決断する。

 

「と言うわけで私たちのコンビ名、椿子ピーっ萬子チョメチョメでした! どうもありがとっ!」


 二人は自分たちで『ピーっ』『チョメチョメ』と名乗ることを選んだ。放送禁止用語の時のアレ。


 体育館は大ウケにウケた。

 しかしお茶の間では消化不良にも程がある。オチの意味がよく分からないのだから当然だ。


 特筆すべき事は、自宅でテレビを観ていた彼らの両親名付け親が果てしなくグッタリしていた事だろうか。



――おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

〇〇と×× [バキコとワンズ君①] ハマハマ @hamahamanji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ