第15話 ☆ 伊香保の日記-6 ☆
あたしは何がしたかったんだろう。
そんなふうに悩むことは今までなかった。
自分で自分の頭の中身が理解できないなんて。
あの人を、紫苑を蘇らせたかった。そのためにずっとがんばってきた。
なんだってするつもりだった。
なるなるは天の配剤かと思えるほどのタイミングであたしの前に現れた。
可哀相だけど、彼を材料にしてしまおうと本気で考えていた。
気持ちがぶれ始めたのは、いつの頃からだったろう。
彼が口うるさく良識っぽいことを言ってくるのは、うざったらしかったけど。
実はあたしのことを本気で考えてくれているからではないだろうかと思い始めた。
思えばあたしは一人で研究をするようになってから、誰からの制約も受けなかった。
好き勝手にできるのは楽しかったけど、自分でもかなりヤバイ道を突き進んでいたと思う。
なるなると出会わなければ、いずれ善悪の区別を全くしないようになって、人の痛みも気にしないようになって、研究のためならどんな種類の命だって平気で活用するような女の子になっていただろう。
彼は暴走するあたしを強い言葉で止めてくれる。
彼のその言葉に、お説教じみた様子は微塵も感じられない。むしろひそやかな気遣いが感じられる。
そんな彼が、仮にも人間の女性として暮らしている高峰くらら、魔女リカ魔女ルカをぶん殴ろうとしたのは、よく考えるとおかしい。単に頼まれたからという理由で暴力を振るうような人じゃない。
それはずっと疑問だったけど、今なら分かる気がする。
彼があんな行動を取ったのは、あたしの気持ちを汲んでくれたのだ。
なるなるのことを好きになり始めたのは、多分この辺からだと思う。
彼もまた悩んでいるみたいだ。
顔に出ている。丸わかりよ。
あのとき彼は告白のし直しをして、あらためてつきあって欲しいと頼んできた。
あたしはオーケーの返事をした。
あたしにとっての彼氏は、なるなるしかいないんだから当然だ。
これで名実ともに晴れて彼氏彼女になったはず、……と思ったんだけど。
ところが時折、様子がおかしくなることがある。
どうも約束した『お願い』がまだ残っていて、それを消化するためにオーケーしたと思っている節があるのだ。
『お願い』は、あのときにはもう残っていなかったのに。
返事は本当だから、安心して欲しい。
疑われているみたいでちょっと腹立つから、あえて言わないけどね。
彼のほうも最初はあたしのこと、本気で好きではなかったんだと思う。
出だしからして無茶苦茶だったから。
でも、彼もあたしへの気持ちが変わってきたはずだ。
そうでなければ、またつきあってくれなんて頼んだりしない。
見当違いの悩みを抱えたりもしない。
紫苑はもうすでに元彼。完全に気持ちは振り切れた。
あたしの彼氏は、なるなる。
そしてなるなるの彼女は、あたし。
まだまだこれからだし、なかなか進展しないけど……。
時間をかければ、きっと今まで以上の恋人同士になれる。
そんな気がする。
そう、思いたい。
今度こそ……。
バイオケミカルな愛情 るかじま・いらみ @LUKAZIMAIRAMI
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