閏日のニンニクの花

藤泉都理

閏日のニンニクの花




 吸血鬼ハンターには三分以内にやらなければならないことがあった。

 枯れてしまう前に、天敵である吸血鬼にニンニクの花を射るのだ。


 閏日にしか開花しない不思議なニンニクの花は収穫した時から三分経つと、瞬く間に枯れては塵芥となって消えてしまう。

 根っこから掘り起こしても、どんな処置を施しても、三分で消えてしまうとても儚い花。


 そんな希少な花を吸血鬼なんぞに使うのは、勿体ない気もするが。吸血鬼をこの世から滅することが、吸血鬼ハンターの悲願であったから使えるものは使ってやる。


 血を吸いたいが為に、老若男女を弄ぶ悪逆非道な生物なのだ。

 吸血鬼は。


 かく言う吸血鬼ハンターの身内も。

 吸血鬼ハンターにもかかわらず、吸血鬼に惚れてしまった所為で。


 世の為にも、身内の為にも、家の名誉を回復する為にも。

 吸血鬼ハンターは相棒の通信を受けて、吸血鬼がいる場所へと向かい自転車を走らせた。


 いた。

 吸血鬼ハンターは木の陰に隠れて様子を窺った。

 公園の噴水の前、燦然と輝く寝待月に向かって、吸血鬼は上半身をのけぞらせて両腕を広げていたかと思えば、ふわりと地面へと背中から倒れては仰向けの状態になった。


 月光浴でもしているのか何なのか知らないが。

 吸血鬼ハンターは背中にかけていた弓矢を手に取ると、矢じりにニンニクの花をニンニクの茎で巻きつけて、構えの姿勢を取っては狙いを定めるや間を置かず、矢を射る。






「花に殺されるなんて、ロマンチックじゃないか。礼を言うよ。吸血鬼ハンター。いや。姉君。と、言っておこうか」

「気色悪いことを言うな」

「はは。そんなに毛嫌いをしないでくれ。もう私は消えてなくなるのだから………ねえ弟君は、元気かい?」

「おまえも、吸血鬼も吸血鬼ハンターの存在も消して、表の世界で元気にしている」

「そうか。それは、」











「あんな安心した顔を見せたとて。私は、」


 吸血鬼ハンターは、ニンニクの花と共に消滅した吸血鬼の笑顔を消し、歩き出したのであった。











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閏日のニンニクの花 藤泉都理 @fujitori

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