観測

λμ

カウントスタート

 この宇宙には三分以内にやらなければならないことがある。

 しかし、それがなんであるかは宇宙も知らない。



「おっせぇんだよ、遅刻魔!」


 先に店に来ていた鳳月ほうづき禄郎ろくろうが大声でいった。

 迷惑な奴だと思いつつ、木沢きざわ咲希ざきは答える。


「呼ばれてすぐ来てやったろ」 

 

 と木沢が座ると、鳳月は待っていたかのように、実際に待たされてしまったコーヒーを出した。


「三分以内に来いって送ったろうが」

「いや、知らんが……」


 木沢はスマホを見た。たしかにあった。すぐ来いといわれすぐ出たため気にしていなかった。短文を続けた奴が悪いのだ。


「……今知ったんだから間に合ったようなもんだろ」

「何だそれ」


 と鳳月は胡乱げに眉を寄せた。

 

「情報は一瞬では到達しないからな。観測するまでは届いてないのと同じだ」

「同じではねえだろ」

「宇宙にとっては同じなんだよ」


 木沢は冷めたコーヒーをすする。


「たとえば、この宇宙には三分以内にやらなければならないことがあるとする」

「何をやらなきゃいけねえんだよ」

「知らんよ、そんなこと」

「何でやらなきゃいけねえんだよ」

「知らんて。何かこう、宇宙が吹き飛ぶとかするんだろ」


 へっ、と鼻を鳴らし、鳳月は頬杖をついた。


「じゃあ、何でまだ吹っ飛んでねえんだよ」

「今いったろ。観測したときからカウントが始まるんだ」

「それで?」

「やらないと宇宙が吹き飛ぶ」

「――あ、わかったぞ」


 鳳月がしたり顔で腕を組んだ。


「三分以内に何やるのか見つけないといけねえんだろ」

「ああ、まあ、やることわかってないと、やれないしな」

「でもって、実行しないとな」

「宇宙が吹っ飛ぶからな」

「そうだった、って宇宙が気づくわけだ」

「やべえ、何すんだっけ、みたいに」


 木沢は思わず肩を揺らし、スマホを見やった。


「――あと二分くらいで」

「やること調べて、やらないと」

「宇宙が吹っ飛んじまう」


 二人はどちらともなく笑った。



 残り一分と三十秒。

 宇宙は、まだ何をやればいいのか、わからないでいる。

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観測 λμ @ramdomyu

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