チャンス到来!

ヒットエンドラGOン

チャンス到来!

 全てを破壊し尽くすバッファローの群れが近隣の町を襲っているという御触れが出た。なんでもその群れは木造家屋の建つ村だけでなく、レンガで出来た城壁も、アーティファクトで守護された強固な王都も、何もかもぶち破って暴走し続けているそうだ。


 それを聞いた領民たちは誰しもが震え上がったが、逆に俺はチャンスだと考えた。


(よし! これなら壊せる!!)


 何故なら俺は盗賊で、アジトにはどうやっても開けられない金庫が眠っていたからだ。






 その金庫を盗んだのは一カ月前、領主の館から奪った。


 領主である子爵は領民から税を絞れるだけ絞って私腹を肥やす最悪な屑野郎だ。だからちょっとだけ屑な俺がその金を盗んだとしても、咎められる筋合いはない筈だ。


 噂では、その領主は多くの金貨や価値のある骨董品を大切に金庫の中に閉まっているそうだ。その事を知った俺は綿密に策を練り、遂には計画を実行して上手い具合に金庫を盗み出したのだ。


 ちょっと重くて運ぶのに苦労したが、俺に開けられない金庫は存在しない。何故なら俺は世界一の盗賊だからだ。


「へっへー! これでお宝は全て俺の物。こいつで今夜は色街で豪遊……あれ?」


 その金庫には何処にも鍵穴が見当たらなかった。いかに俺が街一番の盗賊でも、鍵穴の無いアーティファクトの金庫ではどうしようもなかった。






 そんな訳で俺のアジトにはお宝が沢山詰められた金庫が開けられないまま保管されていた。


 そこでこの猛牛騒ぎ……まさにチャンス到来だ!


「そのバッファローの群れに金庫を壊させて、中身を回収すればいいじゃない!」


 さすがは村一番の盗賊である俺様だ!


 そうと決まれば早速実行だ!






 俺はバッファローの群れの動向を常に耳に入れ続け、遂にはその予測進路を割り出す事に成功した。


「くそ! 相変わらず重たいな! だが、その分中身には期待できるぞぉ!」


 苦労して金庫を馬車の荷台から降ろした俺は、少し離れた場所でバッファローの群れが来るのをジッと見守った。



 待ち続けること数時間後、計算通りバッファローの群れがやって来た。目の前にある岩や木をものともせず、彼らはただひたすらに前へ前へと進軍し続けていた。


 やがて群れは金庫の場所へと到達するも、バッファローたちは一頭も怯むことなく、それを蹴飛ばし、踏みつぶし、遂には破壊して駆け抜けていった。


 後に残されたのは粉々に砕け散った金庫と……その中身のお宝たちである。価値ある壺もコインも例外なく全てが原形を留めていなかった。


「…………なんでやねん!」


 でも、粉々になった金貨を拾い集めて売ったらそこそこのお金にはなった。


 気分を変えて色街に出掛けたら……バッファローの群れに街を破壊されたらしく、しばらく休業となっていた。


「…………なんでやねん!」

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