【KAC2024】カップ麺の攻防【KAC20241】
御影イズミ
湯切りは時間が経ってから。
スヴェン・ロウ・ヴェレットには三分以内にやらなければならないことがあった。
突然手渡された書類チェックと急な書類サイン連打。
自分以外の誰かに任せりゃいいものの、我の強いスヴェンは任されてしまったら止まらない。
だが今のスヴェンは違う。
彼は今、三分以内ですべてを終わらせる勢いで作業をこなしている。
右手にタッチペン、左手にボールペンという神業で仕事をこなしていく。
「父様~……わぁ」
「マリィか。聞きながら作業する」
部屋に入ってきた娘のマリアネラが父スヴェンのとんでも芸の披露をしていて驚いてしまった。
だが、彼女は父の作業机の上を見て、何故こんな状態で作業をしているのかを理解。小さく笑いながら、机の上の書類を纏める手伝いを始めた。
「ああ、焼きそば伸びちゃうもんねぇ」
「最後の1個だったからな」
そう、スヴェンは戸棚に残されていたカップ焼きそば『まるやきソバーン』に湯を入れて、三分待っていたところだった。
まるやきソバーンはお湯を三分入れて、湯切りをしてからソースを掛けて食べるカップ麺。香ばしいソースの香りが麺に絡み、程よく甘辛い味のもちもち麺となって喉を通り過ぎるのが特徴的だ。
しかしお湯を入れて三分という時間を少しでも過ぎると、湯を吸いすぎたダルダルの麺となってソースの味がボケてしまう。
そしてこのまるやきソバーンは戸棚に残された最後の1つ。
今住んでいる施設付近には売り出しがされていないため、ここで失敗したら来月まで待たなければならない。
そんなのは絶対に嫌だから、彼はペンを走らせる。
「終わりだっ!!」
両手のペンを滑らせ、仕事を完了させたスヴェン。
残った時間はわずか10秒。素早く机上のまるやきソバーンを掴んでキッチンへ向かい、湯切り時間の合図となるアラームを聞いてしっかりと湯を切った。
「大勝利……」
唐突な三分間の大戦争に勝利したスヴェン。
その時に食べたまるやきソバーンの味は、また格別だったそうな。
【KAC2024】カップ麺の攻防【KAC20241】 御影イズミ @mikageizumi
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