第5話 決戦と再会
「いけえ。武器を惜しむな」
「総力戦だ」
彼らの眼前に見えるのは、地を埋め尽くすほどのバッファローたち。
空には、近隣の国からやって来た航空機が飛び交う。
衛星通信により事情が説明され、ドーバーを封鎖していたイギリスも腰を上げたようだ。
「彼らヘルハウンドが、人類を救済してくれる」
「モンスター達を地獄に連れ返しに来たんだ」
なぜか、教会の連中が先導し、民衆を戦いに導いていく。
まるで、中世ヨーロッパ。
コロ達は、様子を見ていた。
空には、音速を超える航空機。
空対地ミサイルが飛び交い、二十ミリのバルカン砲がバッファローたちを襲っていく。
ナパームが投下され、町ごと彼らを焼いていく。
今まであった投石がなくなり、航空機が使えるようになった。
そうライオンたちの投石は、それほど脅威だった。
ためらわれていた絨毯爆撃も、彼らの後ろは何もなくなっているため、気にしなくて良くなった。
すべてを破壊し尽くしてしまったが為に、人間の枷が外れ、攻撃の手段を与えてしまった。
戦闘ヘリを出し、その数をドンドン減らしていく。
地を埋め尽くしていたバッファロー達は、急速にその数を減らしていく。
だが彼らは諦めていなかった。
地表をうねる川のように流れを作り、その足で丘に陣取る人たちに向かい始める。
戦車や装甲車に守られ、すでに塹壕まで掘られていた。
どこから引っ張ってきたのか、対戦車ライフルまで。
攻撃が来ると判った瞬間、距離の長いミサイルが発射される。
クラスターがばら撒かれる。
そして、範囲を決め埋められた地雷源。
その準備の様子はコロ達も見ていた。
触れて吹き飛ぶバッファローたち。
その様子も理解をする。
やがて、供給のない弾薬が尽きてくる。
随分数を減らしたバッファローたちだが、まだ居る。
いよいよ、コロ達が動き始める。
一際大きな遠吠え。彼らは一斉に動き始める。
地雷源は地獄の炎に焼かれて爆発を始める。
そこを駆け抜け、息絶え絶えのバッファローたちを殲滅していく。
その中で、一際大きな個体。そいつが、死に場所を見つけたとでも言うようにコロに目を付ける。
視線が、合う。
コロのクリンとした瞳。
少し、なに? という感じに、首をかしげるコロだったが、意図は理解した。
お互いに、加速し始める。地獄の炎がバッファローを包むが、彼は炎をものともせず。こちらへの足を止めない。
頭突きからの突き上げ。
それを狙うが、喰らってやる義理もない。
体を躱して、やや後ろから首筋にコロは食らいついた。
自身の勢いのせいで、コロの牙は、がっしりとバッファローの太い首に食い込んでいく。
首の皮が切れ、血が噴き出す。
いつか、バッファローが感じた甘露で芳醇な味が、今度はコロの口腔で広がっていく。
少し乾いた枯れ枝でも折るような音が、バッファローの首から聞こえ。
彼は、膝をつく。
その瞬間に、興味を失ったコロは、次の獲物に向けて走って行く。
敵はまだ多い。
仲間達と縦横無尽に戦場を走り回り、バッファローたちを蹂躙していく。
その様子を丘の上から見守る人たち。
涙をこぼし、拝み始める人が出始める。
数万を誇っていた彼らバッファローは、殲滅されていった。
歓声が沸き起こり、人々が熱狂する。
その姿を見て、コロはさみしさを感じる。
ご主人、信介に会いたい。
仲間の一匹に周囲の掃討を任せて、彼は走り始める。
日本へ向けて。
数ヶ月かかったが、日本へたどり着く。
ヨーロッパの報は届いていたのだが、追い回されたり散々苦労して、日本海の上を走り渡ってきた。
記憶の断片を辿り、散歩で歩いた道へとたどり着く。
匂い。それを感じる。
一目散に見たことのある家へと走って行く。
一軒の家の前。
そこで、一声吠える。
まるで帰ってきたよと伝えるように。
信介も心の中では諦めては居たが、日々写真を眺めていた。
この二年近く、コロのことを忘れたことはなかった。
家が揺れるほどの咆哮。
恐る恐る、金属バットを持って、外の様子を見に出る。
体高三メートルを越える犬? 体に黒い炎を纏い。
だが、そのつぶらな瞳。
かしげる首。
その姿には覚えがある。
「コロ。もしかしてコロなのか?」
また咆哮。
ハッハと、喜ぶ口元から垂れるよだれは、道路を溶かす。
だが、片手を持ち上げ、喜ぶ仕草は変わっていない。
ためらいながらも信介はコロに抱きつく。
気を利かせたのか体躯の炎は消える。
「よく戻ってきた」
この言葉。
コロの心は、それだけで満たされていく。
帰ってきたんだ。
周りを、自衛隊やら警察が囲み出すが、彼らには関係なかった。
その後、ヨーロッパでの話から、伝説のボスだとわかり、特殊な飼育施設が用意されたようだ。
その後も、彼は日本の治安維持に尽力をしたとか、伝承には残っている。
KAC20241+ 世界の終焉を救うのは一匹の犬、コロだった。 久遠 れんり @recmiya
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