ずっと一緒

三生七生(みみななみ)

東京にて

築38年のアパートは、無駄に日当たりが良い。

「暑いね」

「夏だからね」

「そういうことを言ってんじゃないの。『そうだね、暑いね』って返してほしいの。『寒いねと、話しかければさむいねと、答える人のいるあたたかさ』って短歌知らないの?」

「そういえばそんなの、習ったような」

「文学的な感傷ってもんを知らないの?」


「暑くて溶けちゃいそうだね」

「そうだね、溶けちゃいそうだね」

「そうそう、それそれ」



「昨日の夜、眠れなかったね」

「下手なホラーより怖いニュース見ちゃったもんな」

「ね。なんとなく起きちゃってたね。でも別に眠くないや」

「俺も」

「もうそろそろお昼ごはん食べる?」

「そうしよっか」


「この冷凍ごはん、全部食べちゃっていい?」

「いいんじゃない、どうせ明日食べないし」

「それもそうか」


「このカレーいつのだよ。冷凍してあるからってちょっとなあ」

「大丈夫でしょ。おなか壊すのも明日以降でしょ。別に困んないじゃん」

「そうだけどさあ…。まぁいっか。カレー食べたい気分なのはそうだし」



「おいしかったね。いつのかわかんないカレー」

「もう考えないことにする」

「それがいいね」



「テレビでも見る?」

「いいかな、どうせ暗いニュースしかやってないし」

「そっか」



「ねえ」

「…ん?」

「俺と付き合ったこと、後悔してる?」

「なにそれ。いま聞く?」

「うん。なんか気になっちゃって」

「珍しいね。そんなこと聞くなんて」

「なんか恥ずかしいから、やっぱなんでもない」

「へんなの」



「ずっと一緒にいられるかな」

「死んでも一緒だよ。あの世でも。生まれ変わっても」

「生まれ変わったら、巨乳になりたい」

「なんですぎる」

「だっていっつも巨乳の女優のAV見てるじゃん。知ってるんだからね」

「巨乳になったお前、来世で見つけられる自信ないなあ」

「は?」

「すいません」



「さっきの質問、あるじゃん」

「ん?」

「後悔してないよ、付き合ったこと」

「そっか」 「よかった」

「そっちこそ、私でよかったの?私、全然タイプの子じゃないでしょ?だから私も、どっかで不安だったよ」

「確かにどタイプかって言われたら違うけど。でもそれでも俺は、お前といたいと思ったし、思ってるよ。それって嬉しくない?」

「うん。私も確かに、あなたのことどタイプだと思って付き合ってなかった」

「でしょ。そういうもんだよ。結局」


「お前こそ、よく俺の告白OKしたよね。ウザがられてもおかしくないなって思ったのに」

「まあびっくりはしたけど。悪くないなって思ってOKしたんだよね。そしたら意外と釣った魚にもエサやるタイプなのがわかって、その優しさってかギャップ?がいいなと思って、今に至る」

「ふーん」

「嬉しそうだね」

「地味にね。無意識でやってたことだと特に。逆に俺のどこが好きじゃない?」

「どうしたの」

「気になって」

「……『好き』とは言ってくれないところかな」

「…ごめん。恥ずかしいだけだから。言わないからって、思ってないわけじゃないから」

「わかってるよ、それも。私もそうだから。ごめんね」

「…お互い様だね」



「手つないでいい?」

「私も同じこと聞こうと思ってた。いいよ」


「ずっと一緒にいような」

「あの世でも、生まれ変わっても?」

「うん、すきだから」

「うれしい。私も、すきだよ、_______ 」







「_____お伝えします!昨日からお伝えしているように、地球とほぼ同じ大きさの隕石が現在、地球に向かってきています!人類が生存する確率は絶望的です!隕石はもう少しで大気圏に突入します!みなさん、残り少ない時間をどうか大切に!繰り返します___ 」

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ずっと一緒 三生七生(みみななみ) @miminanami

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