ずっと一緒
三生七生(みみななみ)
東京にて
築38年のアパートは、無駄に日当たりが良い。
「暑いね」
「夏だからね」
「そういうことを言ってんじゃないの。『そうだね、暑いね』って返してほしいの。『寒いねと、話しかければさむいねと、答える人のいるあたたかさ』って短歌知らないの?」
「そういえばそんなの、習ったような」
「文学的な感傷ってもんを知らないの?」
「暑くて溶けちゃいそうだね」
「そうだね、溶けちゃいそうだね」
「そうそう、それそれ」
*
「昨日の夜、眠れなかったね」
「下手なホラーより怖いニュース見ちゃったもんな」
「ね。なんとなく起きちゃってたね。でも別に眠くないや」
「俺も」
「もうそろそろお昼ごはん食べる?」
「そうしよっか」
「この冷凍ごはん、全部食べちゃっていい?」
「いいんじゃない、どうせ明日食べないし」
「それもそうか」
「このカレーいつのだよ。冷凍してあるからってちょっとなあ」
「大丈夫でしょ。おなか壊すのも明日以降でしょ。別に困んないじゃん」
「そうだけどさあ…。まぁいっか。カレー食べたい気分なのはそうだし」
「おいしかったね。いつのかわかんないカレー」
「もう考えないことにする」
「それがいいね」
*
「テレビでも見る?」
「いいかな、どうせ暗いニュースしかやってないし」
「そっか」
*
「ねえ」
「…ん?」
「俺と付き合ったこと、後悔してる?」
「なにそれ。いま聞く?」
「うん。なんか気になっちゃって」
「珍しいね。そんなこと聞くなんて」
「なんか恥ずかしいから、やっぱなんでもない」
「へんなの」
「ずっと一緒にいられるかな」
「死んでも一緒だよ。あの世でも。生まれ変わっても」
「生まれ変わったら、巨乳になりたい」
「なんですぎる」
「だっていっつも巨乳の女優のAV見てるじゃん。知ってるんだからね」
「巨乳になったお前、来世で見つけられる自信ないなあ」
「は?」
「すいません」
「さっきの質問、あるじゃん」
「ん?」
「後悔してないよ、付き合ったこと」
「そっか」 「よかった」
「そっちこそ、私でよかったの?私、全然タイプの子じゃないでしょ?だから私も、どっかで不安だったよ」
「確かにどタイプかって言われたら違うけど。でもそれでも俺は、お前といたいと思ったし、思ってるよ。それって嬉しくない?」
「うん。私も確かに、あなたのことどタイプだと思って付き合ってなかった」
「でしょ。そういうもんだよ。結局」
「お前こそ、よく俺の告白OKしたよね。ウザがられてもおかしくないなって思ったのに」
「まあびっくりはしたけど。悪くないなって思ってOKしたんだよね。そしたら意外と釣った魚にもエサやるタイプなのがわかって、その優しさってかギャップ?がいいなと思って、今に至る」
「ふーん」
「嬉しそうだね」
「地味にね。無意識でやってたことだと特に。逆に俺のどこが好きじゃない?」
「どうしたの」
「気になって」
「……『好き』とは言ってくれないところかな」
「…ごめん。恥ずかしいだけだから。言わないからって、思ってないわけじゃないから」
「わかってるよ、それも。私もそうだから。ごめんね」
「…お互い様だね」
「手つないでいい?」
「私も同じこと聞こうと思ってた。いいよ」
「ずっと一緒にいような」
「あの世でも、生まれ変わっても?」
「うん、すきだから」
「うれしい。私も、すきだよ、_______ 」
*
「_____お伝えします!昨日からお伝えしているように、地球とほぼ同じ大きさの隕石が現在、地球に向かってきています!人類が生存する確率は絶望的です!隕石はもう少しで大気圏に突入します!みなさん、残り少ない時間をどうか大切に!繰り返します___ 」
ずっと一緒 三生七生(みみななみ) @miminanami
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