別に待ってないけど?
「やだ、
同期の女子が俺の肌を見ておもむろに言いだす。俺は自分の頬をびよんと伸ばした。
「いいだろ。こう見えて丁寧に手入れしてんだぞ」
「洗顔何使ってんの?……いやこの場合化粧水か……? それとも乳液……?」
「あとで一式全部教える」
「神~⁉」
語尾を揺らしながら近寄ってくる同期をそっと避けて、とりあえず俺はノートパソコンを叩く。
「今度のプレゼン資料、この感じでいいかな?」
「いいんじゃないかな」
俺はこの、大学に入ってから感じる「お前(あなた)がそういうならそうかも」みたいなふやんふやんの空気があまりすきではない。もっと物事はきっぱりと判断してほしいし、好きなら好き、嫌いなら嫌いと言ってほしい。
スマホが震える。
「あ。ゴメン、ちょっと外す」
俺はコミュニティーホールを抜け出して、電話の相手に声をかけた。
「タクミ、お前さあ!」
『悪い、』
電話の向こうの声はあの夜と同じ低い声。俺は厭味ったらしくねちねちそいつを責め立てる。
「ほんとどうかしてるよね。全部分かったうえでホテルに連れ込んで好き放題――」
『声がでかい!』
すれ違う大学生がぎょっとこっちを見た。だけど俺は実のところ、嬉しい。
「俺じゃなかったら通報してるわ~」
『……』
「ね、可愛い俺で良かったでしょ?」
『それは……本当に』
小さなハートがひとつ。心臓のあたりにきゅんと響く。
『……可愛かったよ』
「もっと言え」
俺はにやにやしながら、ウィッグに比べたらいくぶんか短い髪の毛を掻き上げた。
「そしたら許す。……また今度お酒の飲み方教えてよ、タクミ」
『この、クソガキ』
「あはは」
『可愛いから許す』
俺は多分今日もニーハイを穿く。そして街を歩く。今度は一人じゃなく。
「またね」
十九歳女装男子、別に恋はしたくない 紫陽_凛 @syw_rin
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