リニア実験線タイムマシン

詩織(カチューシャ時々ツインテール)

ゼロ周目

 2027年、地下水の噴出や強い地圧によるコンクリートのひび割れ、短期間でのガイドウェイの敷設など、数々の問題をクリアして、リニア中央新幹線が開業した。



 一方、数撃ちゃ当たる負け犬の遠吠え 註1がクリティカルヒットした【自由党】は衆参ともに議席を大きく減らし、色々ごたごたがあったものの【立憲党】【社会党】【日本共産党】 註2【タローとゆかいな仲間たち】 註3(後者二党は閣外協力)による連立政権が誕生した。


註1:ある党の機関紙のスクープのこと。

註2:たとえテレ東が特番を組むような事態になっても、非合法時代を含めて一世紀以上の歴史を持つあの政党は党名を変えないだろう。

註3:党首は【犬山 註4本・タロー】。【日本共産党】より左と言われることもある。

註4:ミドルネームについて言及したタローは麻生。あ、そうですか。



 この連立政権は脱原発・脱炭素を推し進め、多くの原子力発電所、石炭火力発電所が操業を停止した。

 【立憲党】の試算では、節電を徹底すれば、現在国内で消費される電力程度は天然ガスと再生可能エネルギーで十分賄えるはず……だった。


 しかし、リニア中央新幹線の非常に大きい電力消費により、日本の電力需要は増大。

 

 供給が追いつかず、慢性的な電力不足に陥っていった。


 この失策により、与党第一党だった【立憲党】は衆院選で大敗。

 【第二自民党】 註5や『小和泉・進二郎』『コーノ・タロー』『石場・滋』 註6『上川村・洋子』などによって建て直された新生・【自由党】が躍進。

 かつて【自由党】と連立を組んでいた【創価の会】 註7や、何故か【自民党】 註8も議席を大きく伸ばした。


註5:かつては『ゆ党』と揶揄された。【自由党】より右とも言われる。しかしこの世界の【自民党】というと……

註6:鉄オタ、ミリオタなどとして知られ、ラーメン文化振興議員連盟、ジビエ議連の会長などを務める。ただ、過去の言動から「総理になれない」と多くの人物から言われているとか……また、慎重を期すことを彼になぞらえて『石場氏を叩いて渡る』というらしいが真偽は不明。

註7:支持母体の名称そのままじゃねえかよ。

註8:諸派党構想を掲げ、ワンイシューの尖った候補を多く支援していた。略称を『民主党』にしようとして却下され、『自民党』にしても却下された。どちらに投票されたか不明な票は案分されるため、そのようにして票を得ようとしたのだろう。




 時は流れ、2054年。


 ある発電方法の実用化によって、電力不足は完全に解決した。


 マグマ発電。

 天候などに左右されず、安定的な電力供給が可能な地熱発電。その究極。


 従来の地熱発電と異なり、温泉の湧出量への影響がないのみならず、発電によってマグマの熱を消費することで、のではないかと期待された。

 111の活火山を擁する日本。各地でマグマ発電所が建設され、国内の総発電量の殆どをマグマ発電によって発電された電気が占めるようになった。



 しかし、政権が交代しても有効な対策を打つことができず、マグマ発電が実用化されるまで20年以上電気料金が高止まりし続けていた日本の経済は、もはや修復不可能と思えるほどに大きな打撃を受けていた。



 増税と国債はとどまるところを知らず、年金や生活保護といった社会福祉制度は破綻。

 貧富の差は広がり続け、富める者は進歩した医療技術によってほぼ不老不死になる一方、殆どの国民は今日明日の食事すらままならない……




 『大井川勝俣・平蔵』元静岡県知事の前に、二人の男が現れた。


 一人は【タローとゆかいな仲間たち】党首『犬山本・タロー』。もう一人は、かつて県知事選の際に連日応援に駆けつけた元総理大臣『ハト派山・雪夫』。


 『ハト派山・雪夫』は、開口一番言った。


「『大井川勝俣』君、過去に行って日本を変えてくれ」


 ……は?

 何を言っているんだこの人は。その言動は以前から『宇宙人』などと呼ばれていたが、こんなにも理解できないのは初めてだ……


「『ハト派山』さん、それじゃ伝わらないですよ……。「スフィー……スファー」いいですか、まだ報道には載っ「スフィー……スファー」ていませんが『タイムトンネル』 註9というものが発見され「スフィー……スファー」たんです」

 ハト派山の鼻息が五月蝿い。


註9:宮藤官九郎脚本の某TBSドラマ最終話参照。


「元静岡県知事である『大井川勝又』さんには、これを用いてリニア開業前にタイムトラベルし、マグマ発電が実用化されるまでリニア開業を遅らせ、『リニアショック』を回避あるいは軽くしていただきたいとそういう話なんです。しかし、そのことを理由にリニアを止めるのはあまりに荒唐無稽すぎる。理由は……そうですね、「大井川の流水量に懸念」としていただければ。詳細はこちらの資料を御覧ください」


「それでは、スフィー……スファー……よろしく頼むよ。スフィー……スファー……」


 『大井川勝俣・平蔵』は、『犬山本・タロー』に渡された資料だけを手に握って、着の身着のままいつの間にか部屋に空いていた穴に押し込まれた。


「ああ、タイムトンネルはコスト高いから、スフィー……スファー……何かあったらリニア実験線を使って帰還して……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リニア実験線タイムマシン 詩織(カチューシャ時々ツインテール) @Kuwa-dokudami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ