第8話 動転 4
俺様は魔力を嗅覚と味覚で感じ取っている。その精度が極まりすぎて相手が何か動こうとする時に、無意識に漏れ出る魔力の匂いや味で行動が先読みできる。この魔力の漏れはどんな奴であろうと防ぐことができない。だからこそ俺様はここまで生き残ってきた。その予知にも等しいものを授けてくれた俺の感覚がこう告げてる。
「てめぇ、ただの人間じゃねぇな」
こいつから発せられている魔力や血や肉を実際に口に入れたことで分かった。通常、人間の魔力は体を覆うように全身に流動しながら満ち満ちている。しかしこいつは不自然なまでに粗がない魔力をしており、まるで完璧な球のような、どの場所を喰っても味が均一だ。それでも極上なことに変わりはないが、こんな魔力を俺は知っている。ここまで喰ってきたやつにそういう魔力は複数いた。そいつらに共通するものといえば―――――――――――――――――――――――――――――――――
「
「ホムンクルス?」
「なんだお前知らなかったのか」
「お前に魔術防御を張り、助けに来たそこの女は、かつて世界を救った英雄がいなかったときに人間どもが打開策として考案し、そして実験の末に誕生した戦闘に特化した人間を目指して人口的に作られた人間、
「な!そんな馬鹿な!人造人間なんてとっくの昔に寿命で死んでるはずだろ!それに普通の人間よりも寿命は短いはずだ!」
「おっ!人造人間についての知識はちゃんと持ち合わせてんのか。その通り。人造人間どもあくまで人工物。寿命は普通の人間と比べて20~30年ほどだからな。かくいう俺も大昔に研究所の跡地に放置されていた培養器に入れられていたやつを2、3人ほど喰っただけなんだがな。だから漂ってくる魔力の味や匂いで気づけなかった。だがな喰えばわかるんだよ。こいつは間違いなく人造人間だ」
「じゃあイザベラさんはどうして生きてる!この人は俺の祖母の代から診療所をやっているんだぞ!」
「この女イザベラっていうのか。まぁいいか。人造人間ってのは確かに寿命に難がある。でもな、それを克服した人造人間がかつて一人だけ記録に残ってるんだよ」
「そいつは他の人造人間とは一線を画し、戦闘や学習能力ともに格が違った。何よりそいつには寿命が無かった。そしてそいつは研究所で実験され続けられていたところを英雄に救われた」
「獣のくせにっ……随分とっ……物知りなんだねっ……ぐぅっ!!!」
「イザベラさん!」
「そりゃ美味く喰うためには、ある一定の知識や知能が必要なんでね。ある都市を喰い潰したときにそこの大図書館で小説、辞典、禁書問わず読んで頭に叩き込んだんだよ」
「そうかい……………………<ライトニング>!!!」
人狼は当たり前のように放たれた魔法を避けて言う。
「丸わかりなんだよ」
「そうかい……………………じゃあこれはどうかな!」
そう言って、イザベラさんは小瓶を投げつける。
人狼は不用意に小瓶を粉砕し、その小瓶の中に入っていた赤黒い液体をその身にかぶる。
「これは……………………てめぇ自身の血を魔術で濃縮したものか?それに魔力も豊富に含まれて……………………なるほどな」
「これで私たちが姿をくらませても、問題がなくなった」
「俺は主に嗅覚と味覚で獲物を見つけて喰ってるからな、てめぇの濃縮された血と魔力でそれを紛らわそうって魂胆か」
「でもよ、それは今すぐ俺がてめぇの頭と体を分けちまえば問題ねぇよな!?」
人狼が消えた、というよりこれは……………………?
景色自体が変わってる?
「あいつがおしゃべりで助かったね。どうにか転移をする魔力は練れたよ……………………」
「イザベラさん!傷は大丈夫なんですか!?」
「まぁこの程度だったらすぐに再生できるかな。あいつが言ってただろ。私は人造人間。自分の体の治療法は知り尽くしてるよ。200年以上前にはもっとひどいことになってた時もあったからね」
イザベラさんは右手で無くなった左腕の怪我と俺の傷を治療しながら、俺にそう告げる。
「それにしても大丈夫なんですか、フェンリルは?」
「放っておいたらあいつはこの街ごと全員喰っちまいますよ」
「大丈夫大丈夫、増援は呼んでおいたから」
「増援?」
イザベラさんは増援を呼んでいると言った。
だけど生半可な増援じゃ奴は絶対に止められない。
「そう不安な顔しないでよ。奴が相手だ。それに相応しい相手は呼んだつもりだよ」
その瞬間、大地がまるで切り裂かれたかのように割れた。
「なんだこれ!?フェンリルがやったのか!?」
そう思いながら周りを警戒するために魔力で全身を強化した直後、全身を血まみれにしたフェンリルが現れた。
「はぁっはぁっ、人造人間っ!!やってくれたな!!まさか俺様と同格どころか明確に俺より格上を呼びやがったな!!」
「黙りなさい、駄犬。お前は私に斬られていればいいのよ」
声が聞こえる。聞いたことのある声だ。この声は今世では聞いたことがない。
だが前世では何度も聞いた声だった。
「俺様を殺すためだけにこんな大物をよこしてきやがったな!?」
それは鮮烈な
そんな信じられないほどの殺気と圧力を纏いながら、人狼をその瞳に捉え続ける彼女の名は―――――――――――――――――――――――――――――――――
「オレガノ王国騎士団全部隊統括団長、さらに王族直属護衛隊体調も兼任する、かつて英雄とともにこの世界を救済しようと戦場に立ち続けた
「
人類の最強の一角が人狼と相対する。
来世への転生、前世からの因縁 ecolor @ecolor
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