第6話 氏神
「
「うーん……どうかなあ、
仮面をつけた男は膝をつき、
「あの娘、呪具の
「申し訳ございません。まさか、生きていたとは。確実に息の根をとめておくべきでした」
「いやいや。死んでなかったのは
「ほんと、ムカつくわ」と黒木家の使者を虚は蹴飛ばした。使者は微動だにせず、うめき声もあげない。蝕神に触れた人間はやがて身体を病み、短命に終わるが、黒木家から遣わされているこの男もまた、黒木家からしたら使い捨ての駒でしかない。いくら祟ろうとも無駄なこと。虚は気味悪そうに見つめ。
「あーあ、いくら信仰を保つために必要と言えど。黒木家に贄選びを斡旋なんてさせるんじゃなかったな。おかげで余計な仕事は増えるし、
「畏れ多いことでございます。我らの蝕神さま」
よく言う、と虚は笑みを歪ませた。数百年前、黒木家の祖先は一族の娘を贄として蝕神に娶らせた。氏神とは一族一統の神様。祖先神ともいう。黒木家の娘と婚姻した蝕神も、黒木家の一員になったようなもの。一族を守る義務がある。穢れを喰う祟り神は、黒木家にとっても都合のいい存在だった。
「オレのことも
「……」
「ま、いいや、あの娘を野放しにさせるのはオレも反対だからね。……それで、
小花の世話をしていた使用人の男。不相応にも駆け落ちまがいの計画を企てていたらしい。どこまで本気かは知らないが。
「それが、あの娘が死んだと聞かせた日に行方をくらませておりまして、目下探しております」
「あ、そう。見つけ次第さっさと始末することだな。まさか、あの状態の小花に未練は残ってないとは思うけど。そいつが一番、小花にとって害がある」
腹いせにうりうりと使者を足蹴にしながら、虚は「それに」と付け加えた。
「小花はもうオレの妻だから、間男が出てきちゃったらオレも許さないからな~」
「……は?」
無感情な使者が、初めて驚いた声を上げた。
「蝕神さま、あの娘のことを本当に〝伴侶〟だと思っているのですか?
「え、そうだよ。当たり前でしょ」
ざわりと、木々が秋風に揺られ、枯葉が舞う。ぷつりと、一輪の菊花を
「どんな事情にせよ、〝妻〟と認めたらもうオレのもんだ。──人間と違って、神様は嘘つかないんでね」
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