第3話
やる! と決めたからにはリサーチ開始。
流星君の事をもっと知りたいから追加の写真をお願いする。
『できれば、流星君の写真をもう少し送っていただけないでしょうか』
既に送られてきている写真は、伏せてこちらを見上げている写真。愛くるしい瞳がきららとそっくりだった。
後は、おなか側の模様がどんな感じかと尻尾の形よね。
そんな事を考えていたら、『僕、写真を撮るのが下手で』と返ってきた。
うーん、どうしようかな。無理に送ってもらうのも申し訳無いよね。
『おなか側の模様と尻尾の形を知りたいので、写真なしでもイメージを教えていただけたら大丈夫です』
『やっぱり、送ります』
又、返信が交差した。
続いて送られてきた写真は全部で二十枚も。
······確かに、写真撮るのが苦手なのかも。
思わず、ぷっと吹き出してしまった。最初の写真は、流星君の瞳がぱっちりしていたんだけど、後から送ってもらった写真はみんな、潰れた大福に糸目か半開きのホラー風。
みょーんと伸び切った体で寝ている写真と、ぶれぶれだったりドアップだったり。
でも、分かったの。
きっと流星君は飼い主さんのことが大好きで、かまって欲しくて纏わりついていたということ。彼の隣で寝たら、リラックスし過ぎて脱力しちゃうこと。
だから、この人は写真がうまく撮れなかったんだ。
カメラ目線なんて、やってられるかって言う、流星君の声が聞こえてくるようだった。
『僕が撮るといつもこんな写真ばかりなんです。すみません』
恐縮したような言葉に、ついつい私の頬は緩みっぱなし。
『大丈夫です。流星君がお客様の事を大好きだったことが伝わってきました。ありがとうございました』
そして、彼も流星君が大好きで······
『嬉しい』
感激したようにポツリと一言送信されてきた。慌てて追加のメッセージ。
『すみません。途中で送信ボタンを押してしまいました。改めまして、ありがとうございました。そう言っていただけて嬉しいです』
やっぱり、面白い人。
いつも注文を受けた時は緊張とプレッシャーでガチガチだったけど、今回は······流星君を作れるということが、とても楽しみになっていた。
パンデミックの影響が小さくなっても、なかなか祖父母の家に行かれなかったので、インターネット通話で近況を伝え合っていた。話し込む母の横で、鼻歌混じりに毛糸に針を指していた私を見て、お祖母ちゃんが笑った。
「
「ううん、この子はね、
さらりと口をついて出た名前に、自分で驚く。改めて思った。
私、流星君を作ることがすっごく嬉しいんだ!
「流星って、ああ、
「······え? お祖母ちゃん、流星君のこと知ってるの? それに流斗君って······」
祖母の言葉に、私は問い返さずにはいられなかった。
確か依頼人の名前は、
何故お祖母ちゃんが知っているのかしら?
「知っているわよ。お隣の小川さんちのお孫さんだから。きららの兄弟猫あげたし」
「えー!」
きららの兄弟猫。
流星君が、きららの······
だから、似ているんだ!
思いがけない縁に、二匹の絆の強さに、胸が熱くなる。
「流斗君は彩夏ちゃんより二歳くらい上だったはず。丁寧にお礼のお手紙をくれて、流星って名前をつけましたって書いてあったから覚えているの。いい子よ〜。小川さんの話だと、今は東京で一人暮らししているみたいよ」
一人暮らし······
コトリと反応する心。
これは顧客の個人情報。これ以上聞いちゃいけない······でも、気になる。
彼女、いるのかな?
膨らみ始めた興味を、自分でも抑えきれない。こんな事初めてで、ちょっと焦ってしまう。
あ、でも、流星君ときららが兄妹って事は、話しても良いよね?
会話の糸口が見つかってほっとした。
それだけで、一歩踏み出せた気がしたから。
きららと流星君、一緒の姿を見せてあげたら、流斗さんも喜ぶかな?
いつもは遠くから見つめるだけで終わる私の恋。
そんな私のことを、きららは歯がゆく思っていたのかもしれない。
きらら、心配させてごめんね。
素敵な出会いをありがとう。
その時、膝の上がほんのりと温かく感じた。
あ、きららの温もり!
また頑張れって、背中を押してくれるんだね。
込み上げる涙で流星君が濡れたら困るから、私は急いで目をぱちぱちさせた。
きらら、大好きだよ。
おしまい
いつも『きらら』がいてくれる 涼月 @piyotama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます