第2話
インターネットでたまたま見つけた羊毛フェルトのぬいぐるみ。
大好きだったペットの写真と並べた姿がそっくりで、こんな事ができるんだってびっくりした。
元々細々した作業が大好きで、工作でも裁縫でも、夢中になると時間を忘れてしまうくらい楽しかったから······だからいつも、学校では仕上げられなかったんだけどね······私もきららを作ってみたいって思ったの。
今だったら、時間を気にしなくてもいいから出来るかもしれないって。
制作キットを買ってはみたものの、そんなに簡単には出来なくて。最初は不細工なきららになっちゃって、ごめんねって心の中で謝って、だから何度も何度もチャレンジして。でも、手元のぬいぐるみの顔が、だんだんときらららしい表情を見せてくれるようになって、心の中でおしゃべりしながら作るのが楽しくて、嬉しくて。
いつの間にか私、もう一度笑えるようになっていた―――
そんな私を見ていた家族が、ポツリ、ポツリと知り合いからの依頼を受けて来てくれた。好きなことを仕事にするのも、いいんじゃないって言ってくれて。
やんちゃだった弟も、今では頼もしい相棒。インターネット上に、お店のホームページを作ってくれて、そういうのが苦手な私の代わりに運営してくれている。
私一人じゃ作れる量に限りがあるから無理って思っていたんだけど、膨大なWebサイトの荒波の中では、こんなちっぽけな店に辿り着く人は疎ら。それで寧ろ安心できたという本音は弟には内緒だ。
そんなある日、珍しく受注依頼が入った。
『先月、愛猫の
······大丈夫!? かなぁ。この人。
ふざけているとしか思えない依頼メッセージに断りの連絡をしようとした時、添付写真の『流星』を見て驚いた。
え!? これって『きらら』にそっくり!
微妙にラインの入り方は違うのだけれど、その姿があまりにもきららに似ていたので、断れなくなってしまったのだ。
それに、彼も流星君を亡くして茫然自失に陥っていると思ったら、他人事ではないと思った。
『ご連絡ありがとうございます。私はただの人間なので召喚はできないのですが、できる限り流星君に似せてフェルトぬいぐるみを作らせていただくことはできるかと思います。いかがでしょうか?』
とりあえず、悩みながら返信を書いて送信ボタンを押した途端、相手からのコメントが到着。
うわっ。びっくりした!
もしかして、相手の人も、今この画面を見ていたのかな?
ちょっとドキドキする······
『大変失礼しました! 貴方の作ったぬいぐるみの写真があまりにも流星に似ていたので、思わず心の声がだだ漏れてしまい、そのまま送ってしまいました。改めて依頼します。流星のぬいぐるみを作ってください。料金は······いくらでもとは言えませんが、できる限り頑張ります』
アワアワと慌てふためいて追送信してくれたのかな。
ふふっ。変な人。
僕ってあったから、男性なのかな?
画面の向こう側の人に、急に血が通い始めたような気がした。
泣いて笑って、焦って溜息ついて。寝たり食べたり、インターネットを覗いたり仕事に忙殺されていたり。そんな姿が想像できて、不思議な気持ちになる。
なんでだろう!?
きららと似た猫を飼っていたと言うだけで、信用したり親しく感じてしまうのは。
いつもは弟に相談しながら慎重に、依頼を受けるかどうか判断しているんだけど、この時だけは自然と答えてしまっていたの。
『お引き受けします!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます