第224話:あったか母さんがんばれ母さん
あぁああああああ。
どう、反応しろ、と?
母さんが。
会社のヒトに。
本多さん? だっけ。
に。
あたしに、その事を、
「へ、へぇ……」
と、しか言いようが無い。
だから。
何か、答えなきゃ。
でも。
「それで?」
くらいしか、聞き返せなかったりする、この微妙な話題。
「んー、お返事、待ってるとこー」
「そっか……」
と、しか。
ね。
こつん、こつん。
徒歩で。
駅から。
自宅までの、道のり。
母さんと、ふたり。
こつん、こつん。
歩いて。
さすがに、ちょっと、無言。
その無言の時間も、また、拷問のような。
「脈、あるの?」
小さな声で。
母さんの方は、見ずに。
視線は、歩く、その先に向けながら。
「んー、どうかなぁ、わかんないなぁ」
あぁ。
母さん。
心中、お察しします。
いや、何を、どう、察することができるのかと言っても。
具体的な感情を、推し量ることはできなくても。
苦しさを。
想像することは、できる。
普段通りにしてるし。
エリ先生や、先輩たちにも、冷静に対応してたし。
感情を、押し殺してたりするのかなぁ、やっぱり。
「ずっと独身らしくて、あのお歳でそれって、やっぱりって感じもあるし、まぁ、ダメ元、みたいな?」
あの、お歳。
おいくつくらいなんだろう?
一度だけ、少しだけ会ったと言うか、見ただけだから。
あまりよく覚えては、いないけど。
結構な、お歳な感じだったような。
そして、母さんは。
あたしの方は、見ずに。
視線は、歩く道路の、その先に。
あぁ。
もう、あの角を曲がれば。
すぐ、家。
我が家。
園田
ふたりで暮らすには、少し大きいとも言える、家。
少し狭い、市道を挟んで、目の前に。
あたしが通う、女子校。
一応、だけど、共学化された風で。
男子である、あたしも、ほぼ一年近く通ってる。
男子である、あたし……。
うん。
卒業するまでは。
女の子を、模して。
女の子の、フリをして。
一応、男子風の、スラックスタイプの制服も用意してもらったりしてるけど。
やっぱり、プリーツスカートの、この制服が。
落ち着く。
とか。
ずいぶんと。
変わってしまった、あたし。
卒業したら、どうしようって言うのもあるけど。
今は。
そして。
お家、到着。
玄関前、立ち止まって。
「母さん」
「ん?」
母さんを、見上げて。
「良い返事、聞ければいいね」
母さんも、あたしを見下ろして。
「んー……うん」
そう言いながら。
あたしの頭を、抱き寄せて。
むにゅっと。
包み込まれたその頭上から。
「応援してくれる?
見えなくなった、母さんの表情はうかがい知れずとも。
「うん、母さん。応援、してる、よ」
「ん。ありがと」
一月の、夜の、寒空の
寒いんだけど。
あったかい。
母さんの、胸の中から。
「さ、家、入ろ」
「ん」
あたたかい、家の中へ。
我が家へ。
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玄関ダッシュ五秒の女子高にオレひとり なるるん @nrrn
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