第11話 11日目 ふたりきり

昨日はびっくりした。

急に肩なんか組んでくるから、桜庭相手にドキドキしちまった。

俺としたことが。




でも、なんか部室に顔出すの恥ずかしいな…



 —いや、別に好きとかそういうわけじゃないけどさ…



桜庭は、別に俺のことなんてなんとも思ってないんだろうけど…



 —いや、別にそもそもあんなやつタイプじゃないし…



桜庭が小学生だったら、男子とサッカーとかして遊んでそうなタイプだからな…別に俺がどうってわけじゃなく、友達的な感じで…



 —いやいや、桜庭のこととかどうでもよいんだよ、俺の彼女はリディアたんだし!!!





ああぁあぁあぁー!!!!!!!!!!

どうした俺!!!!

しっかりしろ!!!!!!

いくら女子に縁がない人生だったからって!!!!!!





—ポンっ。


「??」


誰かに肩を叩かれた。


「よっ、冴内!ちーっす。」

桜庭が口笛を吹いたようなふざけた表情で俺の横に並んだ。




のわーっ!!!!!!!!!!!!!




「ささささささくらばっ!!!!なんだよっ、びっくりさせんなよ!!!!」



「…いや、びっくりしすぎじゃね?変な奴。」

桜庭は俺のあまりの驚きように、軽く引いている。



「部活、いかねーの?」

「い…いくよ、あとで。お前はさっさと先にいってこいよ。」

「一緒にいこうぜ。」

「いや、俺ちょっと売店に…」

「あっそ。じゃーまたあとで。」

桜庭は機嫌がいいのか、鼻歌を歌いながら部室の方へ向かっていった。




 —別に売店に用事なんてない。

 —ただ、部室でもし桜庭と2人きりになったら、俺、どうかしちゃいそうで…





うわーっ!!!違う違う!!!

やめてー!!!!!!

嘘でしょ、俺!!

違う違う、タイプじゃない!!!

何かの間違いだ!!!




あぁ、昨日から頭が混乱している。

俺は1階にある売店でレッドブルとアイスを購入した。少し頭を冷やそう。




売店から出て、近くの椅子に腰掛けてアイスを食べた。

ひんやりした柔らかい餅の感触が俺の心をほぐしていく。



正門から入ってすぐのこの場所に座っていると、学校に入ってくるやつと出ていくやつの波が嫌でも目に入る。




賑やかに喋りながら歩く仲間達。

手を繋いで出ていくカップル。

キャリア支援センターへ向かうスーツ姿の3年生達。





いいなあ。楽しそうで。

俺も楽しい学生生活を送りたい。



俺はレッドブルをぐいっと口に含ませた。



なんか俺、今変な感じになっちゃってるけど、桜庭となら普通に話せる気がしてきた。

あいつ、気さくだし。

桜庭と友達になりたい。

よし!仲良くなろう!!!!




俺は部室へ急いだ。





—ガチャッ—



「おぅ、冴内。おみやげねーの?」


「え!?」


「お・み・や・げ。…売店いったんだろ?おみやげは?」



…はあ?



「なんで売店いっただけでお前におみやげ買う必要があんだよ。」




「わざわざ売店いくって宣言したんだから、ウチの分のおやつくらい買ってこいよ。」





…はぁ?






何様のつもりだ。パシリじゃねーから。









一瞬でも桜庭にドキドキした俺が馬鹿だった。



興醒めした俺はため息をつきながら席に座ってパソコンを起動した。



VirtualQuestの掲示板を開いてみたが、新着通知もない。



あーあ。



早く帰ってリディアたんとメルルたんに会いたいや。






--------------------




学校から帰ってゲームを起動すると、メルルたんがすでに中にいた。

メルルたんと2人きりなのは初めてだ。

荒んでいた俺の心に一輪の花が咲いた。


カイン「メルルたん…癒して…」


ついつい本音が漏れてしまった。

でも大丈夫。ここはゲームの中。俺は銀髪のイケメンアバターなんだから。


メルル「えっ!?カインさん、どうかなさいましたか?」


カイン「ちょっとショッキングなことが…いや、そんなことはいいんだ。それより、一緒に食事でもどう?」


ゲームの世界で食事をする…せっかく貯めたゴールドをそんなことに費やす意味なんてないのはわかってる。

でも俺は、今戦いたいのではなく、メルルたんと一緒に過ごしたいのだ。

宿屋の1階に食事できる場所があったはずだ。

俺たちは宿屋に向かった。

この架空の世界に食事場所がある意味が、今ようやくわかった。



俺はカツ丼、メルルたんはクリームスープを頼んだ。


…失敗した。もっと気取ってオシャレな食べ物にすればよかった。



メルル「カインさん、私だけではなんのお役にも立てず、申し訳ありません…」


カイン「違うよ、むしろ回復役はパーティに必須だ。俺が今、戦いたくない気分なだけなんだ…」


うぅ、メルルたん、なんて優しくていい子なんだ。


メルル「そうでしたか。なんとお言葉をかけて良いのかわかりませんが、よかったらこれを…」


メルルたんは俺に小さなピアスを手渡した。



メルル「昨日、暇だったので町中の地面をひたすら【しらべる】していたら、偶然見つけたんです。僧侶の私が持っていても、あまり意味がないので、力の強いカインさんのお役に立てば…」



…若干オタク感を滲ませたメルルたんの一部のセリフは聞かなかったことにしよう。




メルルたんの手の上できらりと光る緑色の綺麗なピアスにはなにか見覚えがあった。





あーっ!!!*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*






カイン「…これは2回攻撃を可能にするピアスじゃないか!!メルルたん、グッジョブ!!!」

俺は浮かれながらメルルたんからの贈り物を装着した。


メルル「よ…喜んでいただけて、良かったです…ポッ。」




…ポッ!?


ポッ!て何!!!??

どういうこと???


画面の向こうのメルルたん、照れてるの!?

そんな効果音表示される機能あんの?

どうやんの?!


…いや、もしかしてメルルたんが「ポッ」って喋ったの!!??なんで!?



何〜!!!頼むから教えて〜!!!!!( ;∀;)





—モテないはずの俺はどういうわけか今日も、一日中女子に振り回されている。—






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スクールカースト底辺の俺、専門デビュー!ゲームの中だけでもモテたらいいやと思っていたのに、なぜか現実世界でも女に振り回されて…!? タカナシ トーヤ @takanashi108

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