第10話 10日目 仲直り

今日は月曜日。あー、また1週間学校だりぃな。

早くリディアたんと遊びたい。




桜庭にパンチくらわされて椅子から転げ落ちて笑われた部室にも行く気にならない。

入部早々幽霊部員コースだな。



…そんなことをもやもやと考えながら廊下を歩いていたら後ろから声がした。



「あれっ、冴内くん?」



「あ、岡崎先輩。ちわっす。」

ゲームサークル部長、岡崎さんだ。



「冴内くん、この前は僕もいたのに、桜庭さんにきちんと注意できなくてごめんね。ぼく、部長なのに…。もっとしっかりしないとだめだね。あんなことがあって、来ずらいかもしれないけど、また部活に顔出してよ。」



俺はつい目頭が熱くなった。

なんていい人なんだ。


「お…岡崎先輩!!全然いいんすよ!俺、イジられるのは慣れっこなんで。桜庭なんて、屁でもないっすよ!プップー!!全然平気っす!!部活も、あとで行くっす!!」



「そっかあ!よかった。せっかく入ってくれたのに、もう来てくれなくなったらどうしようかと心配してたんだよ。安心したよ。」

そう言って岡崎さんはにっこり笑った。



あぁ、理想の先輩ってこういう人なんだな。

部活なんてやったことなかったから知らなかった。

岡崎先輩のためなら俺、毎日部活に顔出してもいいや。



心があたたまった俺は、授業が終わったあとまっすぐ部室に向かった。



ドン!!!!



曲がり角で人にぶつかった。



「いってぇーな!!」



副部長の五十嵐さんだ。



「あ、す、すいません!!」



ぶつかったのはお互い様なのに、俺はこういう時、どうしても反射的に先に謝ってしまう。


「なんだ、冴内じゃねーか。もう来ねーかと思った。ククク…」

五十嵐さんはこの前の出来事を思い出したのか、急に笑いを堪えきれない様子で顔を背けた。



ほんとにムカつくヤツだ。

俺は必死に怒りを堪えてその場を立ち去った。



「お邪魔しまーす。」

4003教室のドアを開ける。

「あっ!冴内くん、待ってたよ!!」

岡崎さんが嬉しそうに出迎えてくれた。


「冴内、この前は悪かったな。」

桜庭はバツが悪そうな顔をして謝ってきた。さっきの会話の後で岡崎さんに注意されたんだろうか。


「いいよ、別に。こんなん慣れっこだし。」


揶揄われるのは想定済みでここへ来た。まさか桜庭から謝られるとは思っていなかった俺は、なんだか少し恥ずかしくなって桜庭から目を逸らした。


「冴内くん、今日みんな集まれそうだし、サークル活動報告の写真撮りたいんだけど、いいかな?」

岡崎さんは首から下げた一眼レフを手にとった。こんなしょぼいサークル、わざわざ一眼レフで撮るまでもないんだが。写真好きなんだな。


「いいっすよ。そういえば、部の掲示板に、2年生もいるって書いてあった気がするんですけど。」


「あぁ、阿部くんね。2年の最初まできてたんだけど、最近は幽霊部員だよ。」

そう言って岡崎さんは桜庭の方をちらっと見た。


桜庭は苦虫を噛み潰したような表情をして壁の方に目をやった。


おおかた、進級して、1年の桜庭が入ってきて、俺みたいにひどい目に遭わされて、こなくなってしまったのだろう。

かわいそうに。一緒に桜庭の愚痴をいい合いたいところだ。




—ガチャッ—




コンビニ袋を手に下げた五十嵐さんが戻ってきた。俺の顔を見るなり、ニヤニヤして話しかけてくる。

「よっ、サエナイくん。椅子取りゲームでもしにきたか?」

五十嵐さんは最初クールキャラかと思っていたが、どうやら嫌味キャラのようだ。

このまま負け続けてたまるか。


「五十嵐さん。これからも、仲良くしましょう。」

俺はにっこり笑った。


所詮ここはゲームサークル。陽キャとは縁のない場所だ。五十嵐さんだって俺と同じ、ゲームオタク。

このサークルにい続けるなら、馬鹿にされ続けるか、やり返してやるかの二択しかない。


五十嵐さんがキレてかかってくるのも予想した。でもきっと、岡崎さんが守ってくれる。さっきの調子なら桜庭も援護してくれるだろう。




「お?冴内、お前やっぱ、おもしれーやつだな。」

五十嵐さんは一瞬意外そうな顔をしたあと、またいつもの無表情に戻り、PCに向かい始めた。





あれ。


なんか拍子抜け。

…まあいいか。






「さあ、みんな集まったから、写真撮ろう!写真!!」


岡崎さんがニコニコしながらみんなをホワイトボードの前に集合させた。

「あ、冴内くん、もう少し右に寄って。」

「あっ、ハイ。」


「五十嵐くん、冴内くんの頭に顔隠れてるから、もう少し上に。」

「おぅ」


「桜庭さん、1年生同士、冴内くんともう少し近づいて。」



「こうか?」

そう言った桜庭は、いきなり俺にくっついて肩を組んできた。




俺はびっくりして心臓が飛び出そうになった。




心臓の音が身体中に鳴り響いている。

やばい、こんなにドキドキしてたら桜庭に気づかれるんじゃないか!?



てか、待て。

いやいや、アリエネー!

相手は桜庭だぞ!!

俺に顔面パンチを喰らわそうとした桜庭可憐!!!


落ちつけ、俺!!!!!

なんで桜庭なんかにドキドキしてるんだ!!?しっかりしろ!!!



心の声とは裏腹に胸の鼓動はどんどん高まっていく。




岡崎さん、たのむ、早く撮ってー!!




岡崎さんはにこにこしながらのんびりとカメラのタイマーをセットしている。

「10秒後に撮るからね〜。みんな、目ぇつぶらないでね〜。はい、チーズ!」





俺はこわばった笑顔でピースサインを決めたまま、ただこの時間が無事に過ぎ去ることだけを神に祈った。



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