第9話 9日目 さわれるかチャレンジ

珍しく早い時間に目が覚めた。



あぁ、いい夢だった。




なんと!

リディアたんとメルルたんが、順番こで俺に「あーん」っていちごを口まで運んできて食べさせてくれたのだ!






ーただそれだけの夢だが。





…え、なにか問題でも?





…さあ、今日も可愛いアバターたちに囲まれに行こう。

まだこんな朝早くなら、リディアたんもメルルたんも寝ているだろう。もしかしたらおさわりチャレンジができるかもしれない。


でへへ。

俺は若干鼻息を荒くしつつVRゴーグルを装着した。


じいちゃん並に早起きな母さんが、朝の5時だというのに台所で何かを切っている音がする。


こんな早朝からゴーグルをつけて動き回っている姿を見られたら完全に変態扱いだ。母さんに気づかれないよう静かに動かないと。



〜〜♪〜〜

カインさん

おかえりなさい。

◆Virtual † Quest◆の世界へようこそ。

〜〜♪〜〜

アリエスは大音量で俺を迎えた。



げっ。

うるさっ!!!!

ねぇ、今朝5時だから!!!考えて!!




「アリエス、うるさい!静かに!!!しーっ!!!」




〜〜〜〜

すみません、よくわかりません。

〜〜〜〜





この野郎。ふざけやがって。

「アリエス、音を小さくして」




〜〜〜〜

音量の調節ですね。

かしこまりました。

音量を小さくします。

〜〜〜〜



ふぅ。危うく母さんが上がってくるところだった。



無事ゲームの世界に入ると、リディアたんとメルルたんが俺の視界にいる。

近くにいるところをみると、どうやらふたりともオフラインの自動行動モードのようだ。



勇者の俺は先頭である。

自動行動モードの時は、俺が歩くと、仲間になった順にリディアたんとメルルたんが並んで後ろについてくる。

立ち止まっていると、少しだけ歩き回ってくれるので、2人は俺の視界に入るようになっているが、オンラインの時のように対面したり会話したりはできない。


俺は右側に少し見えているリディアたんに手を伸ばした。

しかし、俺の回転とともに、リディアたんも右側に動いてしまう。


次は、左側に少し見えているメルルたんに手を伸ばした。

しかし、俺の回転とともに、メルルたんも左側に動いてしまう。



あーくそっ!!!!

あとちょっとなのに!!!



残念ながら、おさわりは禁止されているようだ。

俺の誕生日を待って、町の宿屋の2階にあった怪しげな店に行けるのを楽しみにするしかなさそうだ。



仕方なく町周辺をうろうろしているうちに、朝になった。




「渉ー!!ごはんだよ!!!早く降りといで!!!」

「あーい」




ゲームとはいえ、VRでは雑魚キャラを倒すのにも実際に身体を動かさなくてはならない。地味に疲れる。

運動なんてまるで縁がなかった俺が、最近は一日中手も足もフル回転だ。

痩せるかな。




俺はかけこむように朝食をたいらげて部屋へ戻った。



ゴーグルを装着すると画面の右上にピンクの通知が出ている。




—リディアたんがオンラインになった!!



…たっ、大変だ!!!


俺は冷や汗をかき始めた。



俺そういえば昨日、リディアたんを怒らせちゃったんだった!

でっ、でも今はメルルたんはお休み中。素直に謝れば許してくれるかも!??

あれ、でもなんで謝る必要あるんだ?別に何も悪いことは…



えっ、どうしよう。あー、リディアたんがこっちにくる!!何から話せば…—







リディア「カイン♡早起きだね、おはよー♡」








おーぃ!!!マジか!!!ツンデレかーいwwwwwwwwwwww







カイン「やぁ、リディア。昨日はすまなかったな。君を守るといったのに、恥をかかせてしまった。俺は今日も君の薬草係…いや、君の華麗なる親衛隊だ。」



リディア「なんか寒いんだけど…。まあいいや。昨日は私の方こそごめんね。カイン、イケメンだから、なんか、つい…」



うぉーい!!!!マジか!!!!!!

こんなセリフ、現実の俺は生きてるうちに100%言われねぇヤツ!!!!!!



カイン「まだ朝も早い。今のうちに、ふたりの冒険を楽しもうじゃないか。」



リディア「うん♡」



ふはぁ〜。し・あ・わ・せ♡

もうおれ、しんでもいいかも♡



リディア「ところで、相談があるんだけど、実は私、新しいフレンドができて、盗賊で結構強い男なんだけど、よかったら一緒に冒険しない?」



俺「…は?死んでも無理。」


…あ、いやいや、今のはナシ。

「アリエス、今の取り消し。」


カイン「盗賊?それは心強いな。だが男は勇者の俺1人で十分だ。なんたって薬草もたくさんあるし」


くそっ。まだレベルが低すぎて勇者スキルもない俺には薬草の数しか自慢できるものがない。



リディア「盗賊いるとお宝とか手に入りやすいし、便利だよ!うちらまだレベル5とかだけど、盗賊さんレベル20でめちゃ強だし。」



なぬっ!?レベル20!?

それは是非旅のお供にしたいところだが、そんな奴がパーティにいたら俺の見せ場がなくなっちまう。

ぜっったいに主役の座は譲らねー!!!!



リディア「カインの方がイケメンだし、主役っぽい見た目だからリディア的にはカイン推しなんだけど、パーティが強くなった方が… 」カイン「ハイハイハイハーイ!!!!!オールオッケー!!!!盗賊さん、どうぞいらっしゃーい!!!!!!!」


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