第5話〜そして。

 一方。 かつて少女だった頃最初に知り合った森では仲良くなった大きなリボンの少女は。

 名前を変えた彼女を、お姉さまと慕う青い髪の少女と仲よくしています。

 それを見るたびに胸がチク…っとしました。

『それは仕方ない事。 私は長い事この森にいなかった。 これは私への罰なのだ』

 と、笑顔を作り、その悲しみを青年にだけ打ち明けていました。

「大丈夫だよ、新しく関係を築いていけばいい」

「そうよね…私はもう別人に生まれ変わったのだから」


 そしてザクロという名前で人目につかないように朗読会を開きました。

 少女だったころよりは人数こそ少なかったのですが、来た人が喜び、ザクロはとても幸せでした。

 それを自分のことのように喜ぶ青年。 そしていつしかザクロは淡い恋心を抱くようになりました。

 けれども以前犯したした罪を忘れられない臆病さが出てしまい、このまま告げずにいよう、そう考えました。


「そんなの間違っているクマ!」

「え?」

「あの人はザクロの事を信じているんだクマ!

 なのに諦めるなんておかしいクマよ!」

 クマ耳の少女はそういうと、

「大丈夫、ザクロはクマに勇気をくれたクマ。 今度はクマが勇気を渡すばんだクマ」

 そう言うと宝物の時計をくれました。

「あいつがザクロに名前をくれたように。

 そして森で困っていたクマを助けてくれたザクロに。

 今は頑張れって言いたいクマ!」


「話って何?」

「突然だけど、私が言う事を聞いて欲しいの…」

 そう、今だけは臆病な自分にサヨナラしよう。

 クマ耳の少女がくれた時計を握りしめてこう言います。

「いつもそばにいてくれてありがとう。 勇気をありがとう。

 名前をくれてありがとう。

 そして…私はあなたが好きです」

 一瞬沈黙が落ち。

「……うん」

「聴いてくれてありがとう…」

 伝えられた、良かったと思い、去ろうとすると。

「俺は君をできる範囲で笑顔にしたい、そう誓うよ」

 それを聞いた瞬間、クマ耳の少女から貰った時計が光を放ちます。

 光に包まれたザクロ。

 いつしか自らかけた呪縛は消え、元の少女に戻っていました。


 そして数か月後。

 森では結婚式が行われました。

「おめでとう!」

 祝福の鐘の音が鳴る中、幸せのそうに微笑む二人がいます。

 参列する人の中には、かつて少女が犯した罪を知っている者もいます。


 けれど、それを咎め(とがめ)、揶揄(やゆ)するものなど一人もいません。

 ここはあたたかい森だからです。


 あと少しでこの森はなくなり、みな散り散りとなる事でしょう。



 この森に棲んでいたみんなへ、これからもあふれる幸せを訪れるように、と少女は祈り続けます。

 それが彼女なりの恩返しだからです。




<おしまい>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

森の中 安部 真夜 @abe-maya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ