2話「捕まった敵国の姫様(の振る舞いや仕草)が王子様だった」

「貴様、顔を上げよ」



 女の子の声が聞こえて目を開ける。


 現状は両手を手錠で拘束され、両膝が地面についている状態。


 ——詰み~、ですね。


 まあ、手錠くらいなら外せ……ナイフがポケットに入ってねえから無理だわ。


 アハハ~、と心からの苦笑が脳内に響いたところで、目の前の玉座に座るザ・お姫様と言った見た目の女の子がぼくに話しかけてくる。



「貴様が、JUNKジャンクで間違いないのか」


ここスコール皇国ではそう呼ばれているらしいね」



 ぼくはがそう答えると、お姫様は玉座から立ってぼくの方へ歩いてくる。


 そして、おもむろにぼくの顔を眺めた後、ぼくの顔にかかっている前髪をどかして再度ぼくの顔を眺める。


 しばらくして二、三度うんうん、と頷くとぼくの顎をクイッと引き上げてぼくと無理やり目を合わせる。



 ——それはイケメンがやるから、少女漫画で効果があるんだよ。


 いや、異世界に来てお姫様から顎クイされました、は……どう反応したらいい?



「ぼくは、どう反応したらいい?」


「フフフ、そんなに怯えなくてもいいじゃないか。JUNKとは、鬼のようなものと聞いていたのだが」



 笑みを浮かべて何やら楽しげな表情を見せるお姫様に対して、他の周りに控えている騎士たちは何やらざわつき始める。



 ——あくまでも予想だけど『ああ、またお嬢様が喜々とした表情を浮かべていらっしゃる』『これから拷問されるのにあの愚か者は何にも分かってないんだ』とか思われてたら終わりじゃん。


 ……あと、ちなみにぼくらの仲間に鬼はいる。



「そうだな。まあ、此方こなたとて無礼な招き方をしたとは思っている。それについては謝罪する。ただ、それと同時に対談をしたいとも思っている。そのためならば手錠を外せという事も受け入れるつもりだ。どうか、此方と話し合いの場を設けてくれないか」



 しばらくぼくの顔を見てにやにやする時間が続いたのだが、やがて飽きたのか、一歩下がると、お姫様はこれ以上ないほどの丁寧な語り口調でぼくにそう言って、頭を下げた。


 流石にこの行為については周りの騎士がこれ以上ない動揺と、おやめくださいの声が多数上がった。



「……手錠が先です」


「わかった、外せ」



 即答だった。


 すると間髪入れずに一人の騎士がぼくのもとに駆け寄ってきて手錠の鍵を差し入れ、手錠を開錠する。


 手錠から解き放たれたぼくは、ひとまず立ち上がって大きく背伸びする。



「ん~、っと? なんだっけ? ぼくになんの用だっけ? レバンティンとかいうのはちょっと話を聞いたんだけど……」


「逃げ出さないのだな?」


「うん? まあ、話くらいなら聞いてもいいかなって」



 ——この数から逃げるのは流石に無理だって。



「そうか、対談の意思があるという事でいいな? ……此方についてきてくれ。それと近衛部隊諸君へ、手出しは一切不要だ」



 お姫様がそう言うと、この場にいる騎士全員が敬礼をし、お姫様はこの玉座の間——勝手にぼくが言ってるだけ——から出口へ向かって行く。



「行かないのか?」



 従者が玉座の間の扉を開けた時、振り返ってお姫様はぼくに言った。

 ぼくはしばし沈黙したのち、う~ん、と何かを考えている様子を見せてうねり声をあげてから口を開いた。



「……いや、なんでもない」


「そうか? それでは此方が執務室まで案内するから、ついてこい」



 コツコツとヒールが石でできた床とぶつかり心地よく鳴っていく中、ペタペタとぼくのスリーカーの音がその後に続いて鳴っていく。


 廊下を歩いている最中、色々な場所を物珍しげに見ているぼくだったが、やはりここは宮殿と言うにふさわしい。


 異世界転生もののもはや舞台とさえ言われるそれこそ煌びやかきらびやか纏うまとう貴族文化の上に形成された富の遺産そのものがぼくの立っているこの場所に相違ないのだ。



 ——実物見たことないんですけどね。



 しばらくすると、また豪勢な扉が一枚現れ従者がまたその扉を開ける。


 中は一般的なオフィス——家具諸々もろもろの雰囲気が中世ヨーロッパなだけで——にあるような机、対談用の椅子が左右二つずつ、棚に入ったわけのわからない本があり、仕事場と言った雰囲気が溢れている。



「どこでも好きな場所に掛けてもらって構わない」


「そう、それじゃあ失礼して……」



 左側の手前の席にぼくは座った。


 お姫様は従者と何やら話をしているようで、しばらく経ってからこちらの方に振り向いて言った。



「これでしばらく邪魔入らないだろうな」


「えっと? それで対談と言っても何を話すか分からないんだけど?」


「ああ、それなのだが、もう一部屋移動する。ついてこい」


「……座れって言ったじゃん」



 ぼくが愚痴を聞こえないようにこぼしている間に、お姫様は棚にある本を手前に一冊倒す。


 すると、その棚がガガガと音を立てて移動し始める。



「騎士はおろか、使用人も知らない私のサボり部屋だ」


「ぼくみたいなよそ者に教えていいの?」


「邪魔が入ると困るんだ。これは国全体、いや、私の今後を決める大きな対談なんだ」


「……ん、そう」



 行くぞ、と言ってぼくを誘導してどんどんその部屋の奥へ入って行くお姫様に対し、ぼくは困惑しながらゆっくりとついて行った。



 ——いやいやいや、ちょっと待って。


 何をぼくに期待しているの変わらないんだけど、多分、君の望む力だとかはぼくは一切持ってないし、特別何かが秀でているとかもないから期待外れだと思うんだけどな。


 ていうか、その“私の今後”を決める対談相手がよりによってぼく?


 小国派唱えていた身から言うと、小国派でも大国派でも、ぼくより優秀かつ能力も強いやつはごまんといるから明らかにそれは人選ミスってる。


 勘弁してくれよ。



 その部屋は、丸い曇り窓が一つときれいなベッドが一つ、丸テーブルと椅子が二つあり、丸テーブルの上にはいくつかのお菓子がお皿の上に置いてあった。


「一旦椅子に座っていてくれ」


 そう言うとすぐにお姫様はかわいらしいドレスを脱ぎ始めた。


 ――は?

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クラス転移のメイトとの再会は敵として ~能力が(比較的)弱すぎて参謀として後衛に引っ込んでいたぼくだけが敵国に捕まったので寝返った件~ 金雀枝 新 @enisida-arata

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