57.九神――エニアグラム

「アインス!!」


 家々が並ぶ中をしばらく走っていると少しひらけた場所にアインスが剣を持って戦っていた。声をかけてみるが集中しているようでハルト達の呼びかけには反応しない。

 アインスの先には見知らぬ人物が立っていた。

 ひとまずハルト達はアインスの元まで駆ける。


「アインス! 一体何が!」

「ハルト達か…!? 生きていたのか」

「殺されたあと現実で目を覚ましたらしい。それよりこれは一体どういう状況なんだ?」

「この強さ、恐らくあいつが核を損傷させた張本人に違いない」


 すると見知らぬ人物は会話しているハルト達に声をかけてくる。

 声をかけられたハルト達は見知らぬ人物の方に顔を向け様子を伺っている。


「あぁ!! やっと会えたよ、魔女。僕は九神エニアグラムの一人、レントールだよ」

九神エニアグラム、なぜそんな者がここに……。それに魔女……それはかつて人類に嫌われた者達。でも絶滅したと聞いたことがある。一体どういうことだ」

「魔女は絶滅なんかしていないよ。そこにいるんだからね」


 レントールはそう言うとハルトの隣にいるシノの事を指さした。

 周りにいたアインス、ラムネ、リルはとても驚いた表情をしていた。

 なぜなら今すぐ近くにかつて全人類から迫害された恐ろしき存在がすぐそこにいるのだから。さらには九神エニアグラムがいる。そんな状況で驚いた表情をしない方が不思議だ。


「シ、シノさん、それは本当なんですかぁ!!」

「君はそんな事を隠していたのか」

「……うん」

「そう! 魔女は嘘つきで簡単に人を騙す。自己の利益だけを求める獣なんだよ。魔女、全てにおいて例外などなく当てはまる。君もだ」


 アインスのその言葉に思わずハルトは拳に力を入れ怒鳴ろうとした時近くにいたラムネ達が先に反論しはじめる。

 

「例え本当にシノさんが魔女でも私はそうは思いませんけどねぇ!!! ハルトさんだってみんなだって信頼してる信用してる、そんな存在が獣だと罵られる理由などありません!!!!」

「魔女だとしても私達と同じ様に生きているし何も変わらないのにどうして勝手に名付けた総称を恐れ嫌うの……! シノだって私達と……みんなと同じただの女の子なのに!!!」

「私は出逢ってそれほど経っていないが彼女らの仲の良さはなんとなく分かっている。だからこそお前の発言を理解など出来ない。いやする気にもならない」


 ハルトはみんなの言葉を聞きなんだか安心したような表情をしていた。

 シノはひとりひとりの魔女であるシノに対する想いを聞きハッとなって目を輝かせていた。

 きっと心のどこかで思うことがあったのだろうとシノの様子を見ながらハルトは思う。それと同時にシノに対して心無い言葉を言ったその人物にハルトは強い怒りを覚える。

 その感情は何から生まれたのかはわからない。ハルトは今はただ目の前にいるレントールをどうにかしてやりたいという気持ちでいっぱいだった。


「そうなんだ……しょうもないね!! 君達はまるであの人と同じ事を言うんだね。でもまぁ、あの人のおかげでこうして魔女を見つけられた、ちょっとは感謝しないといけないのかもしれない。それで話しは変わるけど君達に二つの選択肢を用意してきたんだ。ひとつ、そこの魔女をこちらに引き渡す代わりに君達の命は狙わない。ふたつ、魔女を引き渡すことを拒みここで命を堕とすか。さぁ! どれが良いか選んで!!」


 ハルトはラムネ、リル、アインスと軽く目をあわせる。どうやら彼らの考えていることは同じなようだ。

 そしてハルトは即決で答える。


「勿論、ふたつめだ!!!!」

「んじゃあ、さよならだね」


 レントールは羽織っている服の中に手を入れ込みその中から何かを取り出す。

 服の中から出てきた手には茶色の玉だった。ハルト達がなんだあれと思っているとレントールはそれを地面に叩きつけた。

 すると大きな音と共に煙が舞始める。

 手で煙を払うようにしているとしばらくして視界が良好になる。

 そして煙が消えたそこには木で体が出来ている大きな化け物みたいなものが立っていた。


「こ、これは……!」

「これは僕の能力スキル命を与える力ドネラヴィだよ。凄いでしょ。僕にとって全てが力になり得るんだ!」


 木の化け物は何もして来ないのか? と思い様子を見ているとついに動き出した。

 重々しい動き、それがあの化け物のデメリットなのだろう。今にもパンチをしようとしてきているが遅い。

 しかし侮ってはいけない。

 あれほどの巨体であれば一撃はもはや即死級といっても良いくらいである。

 だがハルトは既にあの化け物に対する対処法を見つけていた。


「ハルトさん!! 来ますよぉ!!!!」

「大丈夫だ。任せろ。化け物めぇぇ燃えろぉぉ!!!!!!!」


 ハルトは攻撃をしようとしてくる木の化け物に対して火魔法で炎の弾を生成しそれを何発か放つ。

 巨体故そのを回避出来ない木の化け物は体に火が引火しみるみるうちにそれは広がっていく。

 木の化け物は火を消すために暴れまわっていたので周りの木などが次々になぎ倒されていった。


「やっぱり君も持っているみたいだね。でも僕は知っているよ。その魔法は魔女以外に使いこなせないということを」

「確かに……前々から魔法みたいな能力スキルだとは思っていましたが本当に魔法だったんですか!? 実際に見たことがないので凄いです!!!」

「いやまぁ、そうだな」


 木の化け物は散々火だるまになりながら暴れた後、地面に勢いよく倒れ込むと姿を完全に消した。

 そんな状況になっても依然としてレントールは余裕な表情を浮かべている。

 それほどまでに余裕なのはきっと自身の勝利が確実であると確信しているからなのだろう。


「所詮君達は世界にごまんといる人間のうちの一人、ただの凡人なんだ。だから君達は負けるんだ、ここで」

「そうか? 俺達は強いぞ?」

「言うね? ならこれはどうするんだい?」


 レントールは羽織っている服の中から再び茶色の玉と水色の玉を取り出す。

 そしてその二つを地面に叩きつけるとパリンッという音を鳴らして玉は割れた。

 木の化け物が出てきた時と同様に激しい煙がハルト達を覆う。しかし煙はすぐに消え状況が明らかとなった。

 今度は目の前に土の様なもので体が形成されている大きな化け物と体が水で出来ている大きな化け物が現れた。


「二体……同時か」

「両方厄介そうですねぇ。水は物理攻撃が通るかもわからないですし」

「土も物理攻撃が通るかはわからないな」

「ハルト、水は私に任せて」

「わかった。頼むぞシノ」

「うん」

「じゃあ、残りの俺らはあの土の化け物をどうにかするか」

「わかった!!」

「任せてくださいよぉ!! 私がこの剣で一刀両断してやりますからぁあ!!!!!」


 こうしてハルト一行対九神エニアグラム――レントールとの戦いが今ここで始まるのだった。 

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異世界は鬼畜でした。〜クラス転移したが唯一スキルなしで見放された俺は最後の魔女と出会い最強に成り代わる〜 丸出音狐 @marudeneko

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