56.彼女はそこに
ハルトは何やら体に不自然な重みを感じて目を覚ました。
ハルトの体の上にはシノが乗っておりさらには互いの唇が触れ合っていた。
状況をようやく理解したハルトはとっさに体を起き上がらせシノを離す。
「ハ、ハルトさん、いきなりそんな破廉恥な事を始めないでくださいよ!」
「いや、これは違うから! 事故だ事故!!」
「寝る前の私、ないす」
ハルトは立ち上がると周りを見渡した。
既にあの夢の都ではなくボロボロの家の中だった。つまり戻ることに成功したのだ。
ひとまずハルトは部屋の端においていた食べ物が入った袋の中を開け状態を確認する。どれも状態は良くそのまま袋を閉まった。
そしてそのまま袋を持ち上げる。
「ひとまず馬車に持ってくか」
「そうですよね!!」
そうしてハルト達が外に出ようと扉に近づいた時やけに外が騒がしいことに気づく。
それは明らかに人間の声ではない得体のしれないものの声。
そしてハルトはこの声をどこかで聞いたことがあることを思い出す。
森の中、剣を練習すべく標的にした魔物。そうこの声はまさしくゴブリンの声。
でもどうして結界の中にゴブリンが入ってきているんだと思った時少し前にアインスが現実の結界が何者かに壊されたという話しをしていたことを思い出した。
となるとこの場所は完全に魔物に包囲されていることに……。ハルトは急いでここを出ようと言い扉を開けるとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
家の前に倒れる無数のゴブリンやその他の魔物、そしてそこに立つは剣を持った金髪で黒いリボンカチューシャをした女の子。
「まさか……!!!」
「ハ、ハァ、ハルト……」
「リル!!!!!!」
リルの剣にはべっとりとついた魔物の血、服にも体にも傷や血飛沫が染み付いている。
さらには激しく息を荒げて今にも倒れそうなほどにふらふらしていた。
「リルさん! い、生きていたんですかぁ!!」
「生きてる」
「あのあと目を覚ましたらここに居てね……」
話しを聞きながらハルトは急いで持っていた食料の袋を馬車に乗せ皆のいる場所に戻ってくる。
そしてハルトは一体何があったのかを尋ねる。それにリルは答えようとするが体が既にボロボロなせいでいよいよ倒れかける。
そんなリルをハルトが支えたので今回はどうにかなった。
そしてハルトはリルを支えた状態で話しを聞く。
「あの人に刺されたあと視界が眩しくなって気づいたら現実で目を覚ましていたの。どうしてそんな事になったかはわからないけど……もしかしたらこれも夢のちからなのかもしれない。きっとそう、夢の都に不可能なんて言葉はないんだから!」
「この宝石……これがあったから俺はここに戻ってこれた。ありがとう」
ハルトはコートの中から宝石を見せてリルに言う。
リルは嬉しそうに微笑み「うん!」と言った。
しかしラムネとシノは案の定それを良くは思っていなかったがあえてここで言おうとはしなかった。
「それでこれからどうするか」
「もう違うところに行きましょう!!」
「でも良いのか? 【レアルタ】のことは?」
「夢は永遠じゃないんです! いつかは覚めて終わりを迎えるもの。それが今日だったんです。終わりを変えることは私達じゃ出来ません! でも……あんなことをしたやつをぶっ潰したいとは思いますけどね!!!」
「それは確かにそうだな。どうせあのクロードとかいうやつとルーシアとかいうやつのせいだし。見つけてぶっ潰すか」
「ぶっ潰す賛成」
その時ハルトの隣でリルが腕を手で抑え痛みを抑えていた。
どうしたんだ? と聞くとリルは「魔物と戦ってる時にうっかり……」と返事をする。それを聞いたハルトはシノに頼むと言ってお願いをした。
シノは「うん」と言ってコートの中に手を入れる。
「てれれ〜、市場で買った回復薬」
ハルトはシノのボケを華麗にスルーして回復薬を受け取ると蓋を開けリルが負傷している場所にかけてあげる。
するとどんどんと負傷していた場所が綺麗さっぱり治り完治した。
「ハルト、ありがとう」
「どういたしまして」
二人がそんな事をしていると奥の方で大きな爆発音の様なものが聞こえてきた。
まさかあいつらが現実でも何かをし始めたのかと思いハルト達は急いでそっちへ向かおうとする。
しかしその時ハルト達の目の前にクロードが歩いてきた。
「お、お前は」
「この間ぶりだな」
「よくも【レアルタ】を!!!」
「壊したのは僕ではない。それに今回ばかりは手を引くことにする。未来の楽しみが出来たからね」
「何を言っているんだ!! お前ら以外に一体誰があんなことを出来るって言うんだ!」
クロードはハルト達の方に歩き出す。
そしてハルトの真横で立ち止まる。
「もうわかってるだろ? 誰が何の為にしているのかを」
「……ルーシアとかいうやつはどうした」
「夢で死んだ時あいつは笑ってた。価値観の違い、そういうことだ」
「……そうなのか」
クロードはハルトの横を通り過ぎるとそのまま歩き続ける。
「僕はこう見えても根に持つタイプなんだ。だから君達はせいぜい頑張るんだな」
体にふわっと一瞬何かを感じたがハルト達だが誰も反応することはなかった。
シノがハルトの隣まで来て裾を引っ張る。しかしハルトは反応しない。
ハルトは薄々わかっていた。もう考えうる中で最も最悪なシナリオしか残っていないということを。
(今逃げればきっと助かる。でもそれだと一生危機と隣合わせだ。ならここでひとつでも危険を消せれば……)
「シノ、敵はきっと、いや、絶対シノの敵だ。それでも行くか」
「うん。ハルトと一緒ならどこまでも」
「そうか」
「ちょっと二人だけで何いい感じになってるんですかぁ? 私も行きますよぉ! どんなのが敵だったとしても!!」
「私も友達の為ならどこまでもいつまでもついていくよ」
「……よし、んじゃあぶっ潰しに行くか!!!!!!」
ハルト達は爆発音がなった場所へと歩きだしたのだった。
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