55.夢の混沌

「間に合わなかった」

「……クソ」


 ハルト達が夢の核の保管庫についたときには既に保管庫自体が崩壊し原型を留めていなかった。だが幸いなことに核は残っていた。

 しかし四人は核の様子が何やらおかしいことに気づく。

 まるで宇宙の様な色合いをしている核だが所々でバチバチと破裂し発光している。本来の核の様子を見たことがないハルト達からしてもその状況は正常であるとは到底思えなかった。

 

「あれはどうなってるんだ?」

「恐らく核の暴走だろう。正常に見えるが建物の崩壊の時に破片でも当たってどこか傷がついたせいであんなことになっているんだ。でも保管庫の結界を破壊することなんて不可能に近いはずだ……」

「あいつらはそんなちからを?」

「確かにそれなりのちからはあるのだろうがそれでも無理なものは無理だ。もしこんなことが出来るやつが居るとするなら世界を簡単に恐怖に陥れる事のできる存在……九神エニアグラムだろう」

九神エニアグラム…………」

「どんな目的かは分からないが数年前と同じいやそれ以上のことをする気なのは間違いないだろう」


 ハルトはアインスの口から発せられた九神エニアグラムという言葉に内心驚く。

 その存在はシノを狙っており未だに理由はわからない。ただ九神エニアグラムがいることでシノは常に危険と隣合わせになっている。

 どうにかしないといけないんだろうな……とハルトは思う。

 それと同時にそんな存在を相手に戦うことなど出来るのかと卑屈になるが隣にいたシノが裾を引っ張って見つめる。


「あぁ、どうにかするさ」

「ハ、ハルトさん、正気ですかぁ!!?」

「俺を邪魔するなら全員倒す!!!」

「で、でも相手は九神エニアグラムですよ! あの!!」

「誰がとか関係ないだろ。俺は世界を救うためにこの世界に呼ばれたんだからな」

「とうとう頭おかしくなっちゃいましたか?」

「なってねぇよ!!!」


 話しを止めるようにシノがハルトの裾をもった状態で引っ張り核を指さした。

 全員が指の方向を向くと核はなんと先程よりも発光を繰り返しておりそれは次第に速さも増していっていた。

 次の瞬間には核にピキッと小さな亀裂が入り始める。

 それと同時にアインスが地面に倒れ込んだ。近寄って名前を呼びかけるが反応がない。どうやら意識を失っているようだ。

 何が起こり始めたんだとハルトが焦っていると地が揺れ始める。

 シノが地面に倒れる。

 ラムネが地面に倒れる。

 その光景を見ていたハルトはラムネの家で起こった出来事と同じようだと思いながら意識を失い地面に倒れ込んだ。



@@



 目を開くとなぜか夢の都のラムネの家にいた。

 周りにはシノもラムネもアインスもいる。

 一体どうなっているんだとハルトが思っているとアインスが何やら話し始める。


「どうやら始まったようだ」

「一体何がだ?」

「夢の混沌がついに始まった」

「夢の混沌……?」

「昔聞いたことがある話しだが核が暴走を始めると混沌が始まるんだ。混沌は現実と夢が入り混じり合うらしい。そして最終的に夢は消失していき存在を消す。夢の都にある建物も思い出も、人々も」

「そんなのもう終わりじゃないか」

「いいや、方法はある。目を覚ますことだ。ここは夢であり仮想現実、体は真の現実にある。真の現実の自分が目を覚ませばここから逃げる事ができる。だが目を覚ます為には教会に行く必要がある」

「ならもう早く行こう。それでその教会はどこにあるんだ?」

「ここからしばらくかかるが山の上の方にある」

「よし、じゃあ急ぐか!」


 ハルト達は混沌から逃れるため目を覚ましに教会があるという山に向かうことになり家を出ようと扉の方に歩き出した時再び大きな揺れが始まる。

 その揺れは今までのものとは比にならないほど強く立っているのもやっとのことだった。

 揺れがおさまるとアインスが焦ったように「急げ」と言うので急いで家の外に出た。

 そしてシノの浮遊魔法をみんなに付与し宙を浮く。そのままアインス、ラムネを先頭にしてハルトとシノはそのあとを追い出した。

 ハルトはふと核保管庫があった方の様子を見ようと振り返るとさらに奥が真っ黒になっていることに気づく。

 驚いているハルトに対してアインスはあれが何なのかを説明し始めた。


「あれは夢の消失だ。この夢の都が消え始めているということだ。あれに飲み込まれれば私達の存在までもが消失してしまう。だから先を急ぐぞ!」

「あぁ!!!」


 既にアインスは浮遊魔法を使いこなしている様でとてつもないスピードでハルト達をぐんぐんと引き離していく。

 そのアインスに必死にラムネ、ハルト、シノはついていく。

 しかし速度を上げながら逃げているのにも関わらず消失はそれよりも早いペースで迫ってきている。まだハルト達との距離はあるが油断していればすぐに追いつかれて飲み込まれてしまう。

 油断をしないようにハルト達はただただ必死に進んでいく。



@@



 教会のある山頂に到着したハルト達はゆっくりと地面に降りる。

 地面に降りたハルトは後ろを振り向き消失の状況を確認してみたが既にラムネの家があったところは飲み込まれていた。

 この教会まで消失が来るのは恐らく数分ほどだろう。

 急いでハルト達は教会の扉を開け中に入っていく。


「それでこれからどうするんだ?」

「私が教えましょう!! ここですることは簡単です!! どこでも良いので席に座って三十秒ほど目を瞑るんです! そこでコツがあるんですけど心が乱れていたりすると成功しにくいので気をつけてください!」

「この状況でその条件は中々に鬼畜じゃないか?」

「まぁ、ちょっとは時間あるんで大丈夫ですよ!!」

「そ、そうか」


 ハルト、シノ、ラムネは扉から一番近い席に座りアインスは真ん中の通路を挟んだ反対側の席に座った。

 全員は心の乱れをなくし目を瞑り始める。

 しかしハルトは中々心を穏やかにする事ができなかった。今置かれている危機的状況もあるがやはりリルの存在がなくなったということが影響しているようだ。

 ハルトは必死に必死に目を瞑り心を穏やかにするように言い聞かせるがそれでも中々心が穏やかになることはなく条件を満たすことが出来ない。


「……悪い。俺にはやっぱり無理かもしれない」

「何言ってるんですか!! 馬鹿なんですかぁ!!!」


 ラムネはハルトの胸周辺を叩きながら言った。

 胸を叩かれたハルトは思わず「いたっ」と声を出した。しかしここでハルトは違和感に気づく。確かにラムネのちからは強いから叩かれれば痛いのだが他にも何か要因があった痛みだった気がした。

 ハルトはコートの中に手を突っ込み探ると内ポケットに謎の丸みを帯びているようなものがあることに気づく。

 それを取り出し見てみるとそれは綺麗に輝く宝石だった。


「!?」


 それを見たハルトはリルと出かけた時の事を思い出す。



 『それはって言ってね、親友や恋人、家族が持っていると夢の力でこの宝石が光るのよ。でもただ壊れたり持ってる人がいなくなると光らなくなるから注意してね』



 輝く宝石……ハルトはぎゅっと強く宝石を握りしめた。


「待ってろ。リル」

「え?」


 その時教会が激しく揺れ始める。

 どうやらとうとう消失が近くまでやってきたようだ。

 

「帰ろう」

「勿論です!!」

「うん」


 ハルトは揺れる教会の中で安心したような表情で目を瞑ったのだった。

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