呼び出し
「……結構気持ちいいな」
エリーナに案内してもらって、初めて風呂に浸かっている俺は、呟くようにそう言った。
気持ちいいし、お湯に浸かるなんていう贅沢な体験できるなんて、魔族の世界最高だな。
人間世界での俺じゃあ絶対出来なかったしな、こんなこと。
「……名残惜しいけど、そろそろ上がるか」
もっとこの贅沢を噛み締めていたいけど、ずっとここにいる訳にもいかないしな。
と言うか、ここって本来ならエリーナ専用の風呂らしいし、長く居すぎるのも悪いからな。
貸してくれるのも特別だって言ってたし、後で改めて礼をいっておくか。
「あ」
そうして、風呂を上がってエリーナが用意してくれたふかふかのタオルで風呂に続けて贅沢に体を拭いていると、俺はあることを思い出してそんな声を上げた。
エリーナに殺されかけた時、これからは武器を持ち歩こうって決めてたのに、俺、今全然武器持ってないわ。
ま、まぁ、あれだ。初めての風呂に浮かれてたんだよ。
次だ。次、部屋に戻った時からちゃんと武器を持ち歩こう。
もう魔王やエリーナ以外に四天王より強いやつがいるとは思ってないけど、嫌だからな。また死にかけるのは。
「どうだった?」
身体を拭き終えて外に出ると、エリーナが待ってたみたいで、そう聞いてきた。
「良かったよ。ありがとな」
「そう。良かった。それじゃあ、私も入ってくるね」
「ん? あぁ、それじゃ、俺は部屋に戻るな」
エリーナも入りたかったから、さっき一緒に入ろうとか言ってきたのか。
まぁいいや。俺はエリーナに言った通り部屋に戻ろ。
体が暖かくなったからか、ちょっと眠たくなってきたような気もするし。
「あ、そういえば指輪、嵌めながら風呂に入っちまったけど、錆びないよな? ……魔道具っぽいし、大丈夫か」
そう勝手に納得して、俺はそのまま部屋に向かった。
そしてそのまま、部屋に入った俺は、無駄に大きいベッドに飛び込むようにして寝転がって、目を閉じた。
何かの音によって、意識が覚醒していく。
「……ん、なんだ、この音……というか、ここ、どこだ」
変な音に起こされた俺は、重たい瞼を閉じないようにしながら、周りを見渡した。
あー、そうだ。俺、魔王の配下になったんだった。
それで、この音は……あれか。
そうして俺が音がする方向に視線を向けると、そこには昨日ルナに紹介された魔王や四天王の奴らからの呼び出しに使われる魔道具があった。
そういえば、エリーナかルナにどの音が誰からの呼び出しなのか聞くの忘れてたな。
今日は魔王からの呼び出しがかかってる日だし、タイミング的に魔王だと思うんだけど、一応、確認はした方がいいよな。
そう思った俺は、指に嵌めていた指輪に魔力を込めてルナを呼び出した。
「え」
「お呼びでしょうか」
すると、指輪と俺の目の前が禍々しく光出したかと思うと、そこに昨日と同じメイド服を着たルナが現れた。
いや、え? この指輪、そういう効果とか言ってたっけ? 言ってないよな? え? なんで? これじゃあ、本当に用を足してたりしたらそのまま来てしまうじゃないかよ。あれ、冗談のつもりだったんだぞ?
「あ、いや、え? なんで?」
「? なんで、とはどういう意味でしょうか。私がここにいる意味でしたら、ユリ様がお呼びしてくれたからですけど」
「いや、こんな強制召喚的な感じだなんて聞いてないんだけど」
「? 嘘は言っていませんよ? ちゃんと、ユリ様の指輪に魔力を込めていただければ、私の指輪にも伝わると言いましたしね」
「それは、確かにそうかもだけど、強制力があるなんて来ていないんだけど」
「大丈夫ですよ。私はどんな時に呼び出されようが全く問題ありません」
こっちが問題だらけなんだけど。
い、いや、もういいや。そんなタイミング中々ないだろうし、渡してきたのはルナの方だ。そこら辺の対策はちゃんとしているんだろう。
うん。俺はそう信じて、用があったらちゃんと使うからな。
「もういいよ。それより、それ、誰の呼び出しか分かるか?」
「はい。その音は魔王様の呼び出しですね。昨日、監視役の方に説明を受けなかったのですか?」
「忘れてたんだよ。まぁ、また後でルナが教えてくれ」
「はい、もちろんです」
「それじゃあ俺は魔王様のところに行ってくるな。玉座の間でいいんだよな?」
「はい。途中まで、私も御一緒致しますよ」
多分大丈夫だと思うけど、まだ来たばっかりだし、道に迷う可能性もあるから、ちょうどいいな。
そう思いながら、俺はルナの後を着いて行った。
初めて部屋に案内してもらった時と同じように。
……いや、あの時とはルナの雰囲気が少し違うか? なんか今は、少し嬉しそうだ。
余命が一年だと言われたので、どうせなら残りの寿命は好きに生きようと魔王に寝返ったら何故か魔王の娘に気に入られてしまった話 シャルねる @neru3656
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