連絡用に貰ったんだよ

 ……暇になったな。

 魔王様に呼び出されてるのは明日だし、今日はもう一度殺されかけて、外に出るような気分でもない。

 ……そして、気を失ってただけとはいえ、もうほぼ眠ってたようなもんだから、眠たくもない。

 

 うん。暇だ。

 この指輪に魔力を込めて、今出ていったばっかりのルナを呼び出してみようかな、とかふざけたことを思うくらいには暇だ。

 ……流石に呼ばないけどな。

 なんか、あの感じというか雰囲気というか、正直なんて言えばいいのか分からないけど、どんなことをしていようが……それこそ極端な話をするのなら、用を足している最中であったとしても、すぐに飛んできそうな雰囲気があったから、こんなすぐには呼べないんだよ。

 極端すぎる例ではあるけど、ルナの方もこんな直ぐに呼び出されるなんて思ってないから、何か大事な用事をしてる可能性は全然あるからな。


「あ、そういえば、魔族の世界に風呂があるのか聞くの忘れてたな」


 ……やっぱり呼び出そうかな。

 さっきこんなに直ぐに呼び出すのは不味いって思ったばっかりなのに、風呂一つで俺はルナのことを呼び出そうとしてしまっている。


 ……ん? と言うか、今更なんだけど、服についてたはずの血はどこいったんだ?

 服に穴は空いてるし、着替えさせられた訳でもない。

 なら、腹から出た血や口から吐き出した血はどこにいったんだ?

 ……んー、まぁ、綺麗になってるんだし、別に気にしなくてもいいか。

 それより、今は風呂だな。

 少なくとも、俺の部屋には無い。

 やっぱり無いのかな。……無いならないで、体を拭くくらいはしたいんだけど、その体を拭くタオルやお湯の場所も分からん。

 ……仕方ない。少し時間が経ったら、指輪に魔力を込めてルナを呼ぼう。




「入っていい?」


 そう思って、全く眠くないけど、特にすることもないから、ベッドに寝転んで目を閉じていると、そう言いながらエリーナが俺の許可なんて聞かずに部屋の中に入ってきた。

 許可を出さないでも入ってくるんだったら、わざわざ聞いてくるなよ。

 ……まぁ、別にいいけどさ。

 魔族で魔王の娘、そしてあの強さ……こんな態度でも全然納得出来るわ。


「なんか用か?」


「うん。お父さんに私がユリの監視役でいいって認めてもらってきたっていう報告」


「あぁ、そう」


 嫌なわけじゃないけど、一応俺を殺しかけた相手なんだし、嬉しい訳でもないし、俺の返事は淡白なものだ。


「……」


「なんだよ?」


「全然嬉しそうじゃない」


「そりゃ、別に嬉しくは無いからな」


「……私はこんなに嬉しいのに」


 エリーナがなんか言ってるけど、まぁいいや。

 それより、ちょうどいいし、魔族の世界に風呂があるのかについて聞こう。

 

「そういえばなんだけどさ、風ーー」


「ねぇ、それ何?」


 風呂とかってないのか? そう聞こうとしたところで、エリーナは俺の言葉に被せるようにして、俺の右手を指してそう聞いてきた。

 ……俺は風呂のことをさっさと聞きたいんだけど。


「……それってどれだよ」


 そう思いつつも、さっさとエリーナの質問に答えた方が早く終わると思って、俺は渋々そう言った。


「それ、その指輪。さっきまで、無かったよね? 誰なの?」


 誰って……指輪のことを人みたいに言うなよ。


「これは連絡ように貰ったんだよ。そんなことより、風呂とかって無いのか?」


「……連絡よう、ね」


「なんでそんな含みのあるような言い方をするんだよ」


「……別に。ただ、連絡ようにそんなの渡す魔族はいないと思うよ」


 なんだ? これ、ただの指輪じゃないのか? ……いや、でも、見た目はどう見てもただの指輪だよな。

 まぁいいや。そんなことより、今は風呂だ風呂。


「よく分からんけど、結局、風呂はないのか?」


「……あるよ。案内してあげる」


「ん、いいのか?」


「うん。なんなら、一緒に入る?」


「寝言は寝て言ってくれ」


 入るわけないだろ。

 魔族とはいえ、人型の魔族だし、普通に可愛いと思うし、一緒になんて入れるわけが無い。

 そもそも、俺の寿命は一年しかないんだ。

 女の子に対してそんな責任を取れないようなことできるかよ。

 ……魔王の配下になるっていう、かなり人間的に責任の取れないようなことをしてるくせに何を言ってるんだって話だけど、エリーナは初めて俺が俺らしくいられる場所で見つけた仲間なんだ。そりゃ大事にするさ。

 まだ魔王の配下になって一日も経ってないけどな。


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