熱い思い出抱きしめて 7
夜の涼しい風が、ざわざわと葉っぱを鳴らしている。空には月と星。瞬きが音に合わせているみたい。
穏やかな川を船は行く。
騎士対抗戦を終えた、帰り道。
わたしは船尾から遠ざかっていく都の灯りをじっと見ていた。尻尾が揺れるのを止めないままに。
「いい思い出ができたなぁ」
心から笑う。都での出来事を思い出して、浸る。
その内、クグムスさんがゆっくりと隣に来た。
「そう、ですね。準優勝おめでとうございます」
「ありがとう!」
結果は準優勝。
優勝したのはボクトーさんだ。
最後に見失ったところからの一発を受けてしまったから。
でも、良かった。
気持ち良く飛べて、爽やかに競い合えた。悔いはない。悔しさよりも充実感が勝っている。
「皆さんとも友達になれましたか」
「うん、皆良い人だったよ!」
対抗戦が終われば、豪華な宴会が開かれた。
参加した皆も集まって、たくさんのご馳走を味わった。余興として色んな人が芸を披露してて、ペルクスやワコさんも参加。対抗戦の最中と同じくらい皆で盛り上がっていた。
楽しかった。とっても。
「怒りも恨みも悔しさもない、競技。戦いとは違いましたか?」
「うん!」
今まで戦いは、苦しかった。痛くて辛い経験が多かった。
でも今回はこんなにもスッキリしている。
「あなたの強さの源は素直な気持ちにあるのでしょうね」
クグムスさんの話し方は優しくて、安心する。
今も、わたしの心を大事にしてくれている。
良かった。今回楽しめたのも決勝の前に話せたおかげだ。
「次も参加したいですか」
「うん、ボクトーさんとまた会いたい」
「彼と、ですか。何故」
「だってね、わたしみたいに空を自由に動くでしょ。今度は剣なしで遊んでみたいの。……でも、どうしたの? なんか怖いよ?」
「……え?」
急に怖くなっていたクグムスさんの顔が、サッと赤らむ。
「どうしたの?」
「え、あ、いや……」
顔を背けられる。頭を抱えて苦しそうだ。
心配になる。今度はわたしが力になりたいのに。
「失礼しました。忘れてください」
「なに? なんで?」
顔を隠そうとくるクグムスさん。気になって覗き込もうとするけど強めに抵抗されて困ってしまう。
そこに、後ろからリュリィさんが声をかけてきた。
「それは嫉妬というものです」
「いっ……違っ……やっ……!」
大声を出してクグムスさんは更にジタバタと慌てた。
夜の見張りをしていたはずのリュリィさんだけど、よっぽど話が気になったんだろうか。冷たく見下ろしている。
「恥じるくらいならば最初から思慮深く言葉を選ぶべきです。もしくは堂々と意思を伝えなさい」
「う……その通りです……」
「よろしい。ですがカモミールさんは友人の間に差をつけません。安心していいでしょうに」
「え? あ、はい、ですね。友人……ええ、はい……」
一度は落ち着いたのに、また違う感じで苦しそうになってしまった。
どうすればいいか分からない。
嫉妬だっていうなら気にしなくていいのに。
わたしもおかあさんや皆が他の人と長く話していると、大人しく待つのが苦しい時はある。
だから皆一緒が最高なんだ。
帰ったらクグムスさんとも自然の中で遊び回りたい。そうしようと決めた。
と、そんなわたし達を置いて、リュリィさんは真面目な顔つきで話を変える。
「もう遅い時間です。そろそろ眠ってはどうです」
「うぅん、眠くないんだよね。リュリィさんが辛いなら交代しようか?」
「私は気にしないでください。仕事ですから」
「じゃあ一緒にお話しようよ!」
「……そうですか。ではお言葉に甘えて」
「ほら、クグムスさんも!」
「あ、はい……ボクなんかでよければ……」
明るく、生真面目に、穏やかに。
悪い事かもしれないけど、わたし達は三人で眠らずに話し続けた。
それこそ、空が明るくなるまで。
それでも足りない。全然足りない。
帰っても、たくさんたくさん皆に話をしたい。
大事な思い出がいっぱいできたから。
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異端の聖女と流刑地ライフ 〜番外編〜 右中桂示 @miginaka
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