二律背反 ~或いは二兎を追うもの一兎をも得ず~

トム

二律背反 ~或いは二兎を追う者一兎をも得ず~



 ――私と付き合って下さい。



 

 あぁ、俺は一体何を期待していたのだろう……。


 答えは最初から解っていたというのに――。


 一縷の望みも無かったというのに……。


 それでももしやと、考えていた……。


 俺の前に君は立っていない……。


 その言葉は……。



 ――俺に向けられたものではないのだから――。





 それを自覚したのはいつの事だろう。産まれた時から親が友人で、気づけばいつも隣に居た。性別も物心もまだついていない頃から一緒に育ち、双子の兄妹のような感覚だった。どちらが上でも下でもない、いつも一緒に暮らしてた……。一緒の布団で絵本を挟み、二人で話し合いながら、何時しか眠りに落ちるまで。


 

 ――何時から一緒に寝るのをやめたのだろう? 

 ――友人に茶化されて恥ずかしくなった時? 

 ――母達が「あんた達はずっと仲がいいわね」と笑っていた時? 



 ――彼女の寝顔を可愛いと自覚してしまった時だ。



 翌日からまともに顔を見ることすらできなくなり、返事は曖昧なものから素っ気なくなって行き、遂には聞こえないフリまでしてしまう様になっていった。当然彼女は困惑し、怒り出し、最後は泣いて詰め寄ってまで来たが、それすらまともに取り合わなかった結果、互いの行き来はなくなってしまった。


 ……そうして恋愛というものを皆が当たり前のように意識し始めた頃、悪友で親友だった男から最悪な言葉を聞かされてしまう。


 ――俺、あの子のことが好きなんだ。お前だろ、協力してくれないか?










 

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二律背反 ~或いは二兎を追うもの一兎をも得ず~ トム @tompsun50

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