虹色物語〜決して交わるはずのない不良と優等生の恋物語〜

若葉有紗

恋は突然に!?

 その日は、台風が来てるらしくすごい勢いで雨が降っていた。私は雨が嫌いだ。何故なら湿気のせいで癖っ毛の髪がパサパサになるんだ。


 私は昔から小柄で、身長順に並ぶと一番前になる。背が小さ過ぎて男子からは、恋愛対象には見られないと言われたことがあるんだ。


 特別、彼氏が欲しいっていうことないけれど一度でいいから大恋愛をしてみたい。


「はあ……」


 私のため息さえも、土砂降りのせいで聞こえなくなるほどで憂鬱な気分で高校からの帰り道を歩いていた。


 いつものように、小さな空き地の前を通りすぎようとすると空き地の方から物音が聞こえてきた。


「よーし。ミルク買ってきたぞ。こらこら、慌てなくてもあげるからな」


 最初は聞こえなかったが、気づかれないように声のする方へと向かう。そこには同じクラスの不良くんが、子猫と戯れているところだった。


 確か名前は、京極充。私が小柄で身長の大きい人に憧れがあるから、京極くんはも大きくてがっしりしてるから羨ましいと思っていた。


 詳しくは噂でしか聞いたことしかないけれど、他校の不良を殴って病院送りにしたとか。


 他には、万引きの常習犯でいろんな店から出禁になっていて、この辺の店には入れないとか。


 まあ…あくまでも噂だし、私は基本周りからの噂とかに関して興味ないし。それに数々の噂とかを聞いたことあるけど、見たことなかったから半信半疑だし。


 関わらない方がいいと思い、私は気づかれないようにその場を離れようとした。


 しかし、自分が濡れながらも子猫ちゃんが濡れないように、傘をかけてあげてる京極くんを見たらほっとけなかったから声をかけることにした。


「ねえ、その子は京極くんの猫?」


「あ? 笹島穂花……なんで」


「かわいいね」


 私は濡れてる京極くんに傘を差しながら、肩まである少し湿っている髪を耳にかけた。


 そして同じ目線になってしゃがみ込んで、彼の顔を覗き込むとみるみる顔が赤くなっていた。


「かわ! なんて、そんなわけねーだろ」


「猫のことだけど」


「……恥ずかし」


 なんかよくわかんなかったけれど、恥ずかしがってそっぽを向いてしまった。その様子を見ててなんか…かわいいなと思った。


 そんなことを、自分よりも体の大きい男子に思う日が来るなんて思っても見なかったから笑いを堪えるのがしんどかった。


 そして、京極くんが抱いてる子猫ちゃんがこっちを見て鳴いていたので、更に笑いが堪えきれなくなってついに吹き出してしまった。


「あはは」


「おまっ、笑ってんじゃねーよ」


「凄まれても、怖くないよ。ぷっ」


「ぷっ。それもそうだな」


 そう言って、二人で雨の中。笑っているといつの間にか雨が止んでいたみたいだ。


「虹が、見えるね」


「ん? ほんとだ。じゃ、こいつの名前は虹にするか」


「虹ちゃん」


 私が、虹ちゃんと呼ぶと嬉しそうに虹ちゃんは鳴いていた。私と京極くんは徐に立ち上がって虹ちゃんを抱っこしながら、虹が遠くに見える道を談笑しながら歩いていた。


 虹ちゃんは、京極くんが空き地を通りかかった時に擦り寄ってきたらしい。


 そこで、弱々しそうに鳴いている虹ちゃんをほっとけなくてミルクを買ってきて与えていたらしい。


 そこで、私が来たということね。私は、思っていることをニヤニヤしながら伝えた。


「動物には、優しい人がわかるっていうからね」


「そんな風にいうなんて変わってるな」


「京極くんは、とても優しい人だと思うけどな。だって、誰でも見ず知らずの子猫に手を差し伸べるなんてできないよ。私なら、素通りしちゃう」


 私が京極くんを少し屈みながら、見つめつつそう言うと顔を赤くしながら、顔を虹ちゃんを抱っこしている腕とは逆の腕で隠しながら照れていた。


 京極くんて、結構話しやすいし顔をすぐに赤くするからいじりがいがあってかわいくてもっとこの人のことを知りたいと思った。


 近くで見ると、筋肉がしっかりとついていて男の子なんだなあと思った。それに、雨で夏服が濡れていてなんかドキドキした。


 私がそんなことを考えていると。ところでと、京極くんが言いづらそうに声をかけてきた。


「笹原の家で、虹を飼えねーか? ウチ、親が動物嫌いでさ」


「いいよ。虹ちゃんが良ければ」


 虹ちゃんの方を見てそういうと、虹ちゃんは嬉しそうにこっちを見て鳴いた。私も素直に嬉しくてつい頬が緩んでしまう。


「悪いな…頼んだ。その、たまには」


「もちろん、会いにきて。虹ちゃんも、嬉しいだろうし」


「ありがとな」


 そう言って、京極くんは私に虹ちゃんを渡してさっさと行ってしまった。その背中を見て、確かに今まで感じたことのないような温かい気持ちになった。


 この気持ちが、なんなのかはこの時は分からなかった。



 次の日。学校で声をかけると、学校では私に迷惑がかかるといけない。と悲しそうに京極くんが言っていた。


 そのため、学校では今まで通りに過ごしたが、気づくと私は京極くんを目で追ってしまっていた。


 あれから何ヶ月も過ぎ去りもう既に肌寒い季節になっていた。毎日のように学校が終わると、私たちは示し合わせたかのようにあの空き地で待ち合わせをして虹ちゃんと遊んでいた。


 京極くんに、家に上がってと声をかけても大丈夫と言って頑なに上がろうとしない。なんとなくだけど、京極くんと私の間には溝があるように感じて寂しい気持ちになった…。


 不躾な質問は、いけないと思いつつも京極くんのことをどうしても知りたくなって意を決して聞いた。


「ねえ。京極くんさ。私に気を使ってる?」


「…別に…そんなじゃ」


「何か…悩んでいるなら聞くよ。それとも、私じゃだめ……かな?」


「はあ…わかったよ。聞いてくれ」


 京極くんはポツリポツリと、話してくれた。昔から、親には興味を持たれなくて寂しい思いをしてきたこと。


 家では両親は自分に興味がなくいつも一人でご飯を食べていた。


 体も大きかったから誤解されやすく、他校の生徒がうちの学校のやつに、カツアゲされそうになっているところを助けたら、不良を殴って病院送りにしたと噂になったこと。


 万引きをした同級生のために一緒に謝っていたら、万引きの常習犯でいろんな店から出禁になっていて、この辺の店には入れないとかと噂になったこと。


 私はそれを聞いて…なんでこんな心優しい人が、悪者扱いされるのだろうと悲しくなったし無性に腹が立った。


 すると、いきなり優しく京極くんに頭を撫でられた。私は、突然のことで慌てていたが京極くんは真面目な顔をして優しく笑っていた。


 京極くんは、私の目に溜まっている涙を制服の袖で拭ってくれた。


 京極くんの背景に、夕陽が差し込んでいて幻想的に見えていた。京極くんが、私の右頬を触ってきて京極くんの顔が近づいてきた。


 京極くんになら、私のファーストキスをあげてもいいと思い目を閉じようとすると私の膝の上にいた虹ちゃんの鳴き声で我に帰った。


「……く、暗くなってきたから帰るか!」

「う、うん! 帰ろう!」


 危ないところだった。もう少しで、キスをしてしまうところだった。不意に京極くんを見ると彼の頬も夕陽のせいか赤くなっていた。



 次の日。学校に行くとクラスの中が騒々しかった。どうしたんだろうと思い見ると、京極くんとクラスの男子が喧嘩をしていた。


「どうしたの!」


「あっ! 穂花! 大変! 京極がいきなり殴りかかって!」


 私がクラスメイトに声をかけると、興奮気味に教えてくれた。私が、どうしたらと思っていると、京極くんと目があった。


 その瞬間。京極くんが喧嘩してた相手に思いっきり顔を殴られて倒れてしまった。私は、驚いているクラスメイトを横目に気がつくと京極くんに駆け寄っていた。


「京極くん! 大丈夫! 血が……」


 私がハンカチで京極くんの口元の血を拭おうとすると、京極くんは大丈夫だからと言ってフラフラした足取りで教室を出て行ってしまった。


 私も京極くんが心配になり、京極くんの後を追って教室から出ようとすると傍観してた連中が口々に京極くんの悪口を言い始めた。


「あいつ、強くねー癖にイキってたから俺がやっつけたぜ!」


 喧嘩してたクラスメイトが意気揚々とそう言ってたため、私は気がつくとそのクラスメイトの頬を泣きながら平手打ちしてた。


「何も知らないくせに…京極くんのこと悪く言わないで!」


「ふーん。そういうこと。笹島さ、京極のこと好きなんだ?」


 そう言ってニヤニヤしてた。その言葉を聞いて、私は踵を返して京極くんを追いかけつつ言ってやった。


「そうだよ。好き……だよ」


 そういうと、ざわつき始めた教室。私は胃にも介さず京極くんを追いかけた。多分、保健室だろうと思い向かった。


 ああ、そうか。向かいながら考えていた。私は、あの日会った瞬間に京極充に恋をしたのだと声に出して気がついた。勢いよく保健室のドアを開けた。


「京極くん! 怪我は?」


「何で……来た」


 京極くんは私を見るなり、そう冷たく言い放った。京極くんと知り合う前の私なら離れていただろう。


 でも、今ならわかる。彼はとてつもなく臆病で寂しがり屋で本当は甘えたいのに境遇のせいで甘え方がわからないだけなのだと。


「俺なんかに、関わると怖い目見るぞ」


「怖くなんか」


「手……震えてんぞ」


「これは……違くて」


 私が反射的に手を抑えて、目を逸らすと京極くんは壁ドンをしてきた。そして、冷たい目でこう言い放った。


「もう一度言う。これ以上怖い思いしたくなかったら、俺に関わるな」


「なんで……関わらせてよ…関係ないなんて言わないで…私は、京極くんがす」


「あー! もう、分かった。もう降参。それから先は、俺に言わせて」


 私が泣きながら、勢い余って告白しようとすると、京極くんは私を優しく抱きしめて目線を同じくして優しく微笑みながら伝えてくれた。


「好きです。俺と、付き合ってください」


「はい。よろしくお願いします」


 そして、こうなるのが必然のようにお互いとお互いの唇を今度こそ優しく深くキスをした。


「ふっ……」


「どうした?」


「ファーストキスは、蜜の味っていうけど血の味がする」


「つっ……お前ってやつは、つくづく……」


 京極くんは、また顔を赤らめてため息をつきつつも嬉しそうに笑っていた。私は、京極くんを椅子に座らせて、傷口を消毒しつつ上目遣いでお願いをした。


「あのさ、充って呼んでもいいかな……」


「ああ、俺も……穂花……って呼ぶよ」


 私がそう聞くと、きょう……ううん……充は照れ笑いをしながら私の名前を呼んでくれた。充とならこれから先、何があっても大丈夫な気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虹色物語〜決して交わるはずのない不良と優等生の恋物語〜 若葉有紗 @warisa0430

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ