荘厳な壁画や天井画を眺めにいるかのような…。奇妙な読書体験を、貴方も!

 ある日、天使によって家族を惨殺された小学生の男の子が主人公の物語。しかし、主人公にな悪感情と呼ばれるものが存在しない。そのため家族の死を嘆くことはない。それどころか、家族を皆殺しにした天使に言われるまま、自身も天使になることを夢見るようになる。

 そうして、より多くの人を「幸せ」にする旅に出る主人公。彼の傍らには、唯一の友にして、主人公が最強と認める女の子が居た。

 “普通ではない”小学生2人で神戸の都市部を目指す旅路の内容は、当然、どこまでも普通ではなくて……。



 一人称で進む物語。体言止めや擬音語・擬声語・擬態語を散りばめた語り口は詩的で、独特なテンポ感を持って進んでいきます。

 多くの人は、本作を没入して楽しむのではなく、どこまでも俯瞰的に物語を楽しむのだと思います。というのも、多分、人間性と呼ばれるものが欠如した主人公に同感してあげられないから。家族を殺されて、興奮してしまう。そんな、ぶっ飛んだ主人公だからです。

 …ただし。

 一人称だからこそ主人公の気持ちの変化がつぶさに描かれ、理解してあげることはできます。その時々に何を考え、その結果、どのような行動をしたのか。きちんと納得もしてあげられますし、同情もしてあげられます。何より、終始一貫したその考え方や姿勢は「信念」とも呼ぶべきもので、人間性はないけど魅力のあるキャラクターに仕上がっていました。

 ついでに、そんな主人公が唯一の友人と呼び、旅に同道することになるヒロインも、相当イカれてます。無免許運転、放火、強盗……。作中で彼女が行なう犯罪の数々の例ですね。ただし、この子にもきちんと考えと信念があって、行動にも理由がある。共感はしてあげられないものの、やはり、理解はしてあげられる人物像として描かれていました。

 繰り返しますが、主人公もヒロインも、イカれてますし、ぶっ飛んでいます。犯罪行為も、してしまいます。私含め、共感できる読者は少ないかも知れません。それでも、個人的には、主人公たちは魅力溢れる存在であるように思いました。特に最新話(10話)で主人公とヒロインが定める“今後の方針”には最低限の人間性が垣間見えて、なぜかホッとすると同時に感動した自分がいました。(これもある種の“Save the cat”なのかも?)

 どこまでも俯瞰的で、しかし、言葉にしづらい引力がある。また、作品の中核に天使の存在があるからでしょうか。

 本作はきっと、読む宗教画なのだと思います。

 どこまでも、読者である自分が作品の外にいる。そのため、作中で起きる惨い出来事も文字通り他人事で、意外なほどあっさりと受け止められる。しかし、描かれるキャラクターには得も言われぬ魅力もあって、引き込まれ、頷いている自分もいる……。事実、こうして私はレビューを書いてしまっています。

 読者によって十人十色な答えが待っていそうな。見方によっては善性も悪性も感じられる。絵画のごとく、様々な可能性を秘めた本作は、怪作と呼べるのかもしれません、

 一風変わった読書体験を求められる方にこそぜひオススメしたい作品です!

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