Nさん

@ku-ro-usagi

短編

昔からスピリチュアルや占いは醒めた目で見てた

今も信じてないのだけれど

所詮統計論

とまでは言わないけれど

多くのアンチが思うように

血液型や星座のように大雑把過ぎる枠に嵌められるのが

ただ、ただ、不愉快

なのに

つい先日

仕事で

『○○で話題!人気占い師のNさん』

みたいな人のところに

仕事場から急に失踪した後輩の代わりに

急遽ピンチヒッターで取材に行かされることになった

よりによって苦手なスピ枠かよと思ったけど

仕事は仕事

そして私はいい大人

あからさまに疑うような大人げない態度を取り

今はなぜか失踪中の後輩がせっかく取ってきてくれた取材の機会を台無しにする気などもなく

「まぁならせいぜいスピリチュアルに傾倒した女でも演じとこう」

それっぽい情報をしこたま頭に叩き込んで取材へ行った

Nさんと会ったのは予約してたカフェの個室

物腰柔らかそうなお淑やかなお姉さんで

私は

もっとインパクトのある

さも

「占い師でこざい」

みたいな人を想像してたから正直拍子抜けした

更に

Nさんがメニューの生ビールの文字に目を奪われていて

ちょっと親近感も沸いた

いいよね、昼酒

そう言えば

スピな人ってお酒は飲まないイメージあったけど

Nさん曰く

「人それぞれ」

らしい

そりゃそうか

何とか2人で生ビールの誘惑を振り切り

妙な連帯感が生まれたところで

私は

付け焼き刃で頭に詰め込んできた

要は

「私、幸せになりたいんですぅ♪」

的なことをメインテーマで訊ねてみたら

Nさん

「そうですね

『神社行ってお守り買えば彼氏できる』

『結婚できたら幸せになれる』

なんて

神様、他人様になんとかしてもらおうなんて思ってる時点で

これっぽっちも幸せになんかなれませんね」

と物腰も話し口調も柔らかなままに言い切られた

更に

「『幸せになりたけりゃ現実見せて叩き起こしてやるから

まずその糞みたいな他人依存やめて自分で立て』

ですね

そこからのスタートになります」

とまた柔らかい笑顔のまま断言された

私は本音で

「思ってたのと違いますね」

と伝えてみたら

「私たちみたいな所に来る大抵の人は

大概

『不幸に悩んでるわたし』

が大好きな暇人なんですよ」

あらまあ

優しい顔してNさんも大概言うね

「でも来てくれる方の中には

本気で変わりたいって人もいます

そういう人にはこちらも相手の人生がかかってますから

私も真剣に向き合います」

と真摯に話してくれて

私の

長年凝り固まっていた

スピリチュアルやら占いやらの印象も少し変わった


それに気づいたのか

Nさんから

「せっかくだしプライベートで何かあれば視ますよ」

と嬉しい提案を頂けた

ついさっきまではアンチを気取っていたくせに我ながら現金である

私は

少し考えて

別にNさんを試すつもりはないけれど

今日の取材を楽しみにしていた

「数日前から失踪してる後輩の行方」

を訊ねた

会社ではそんなに騒ぎになってないのがまた不思議なのだ

私もあの仕事場はそう長くいるわけでもなく

もしかしたらよくあることなのだろうか

いやまさか

そんなことを考えていたら

Nさんは

何をするわけでもなく

初めて見せる無表情で

しばらく私の顔

いや、後ろ?

をじっと眺めてから

無言でニッコリと笑われた

そして

「一杯だけ、どうです?」

と綺麗に短く切り揃えられた指の爪先が差したのは

テーブルの上のメニュー表の生ビールだった


私は

またNさんの唐突な誘いに戸惑いつつも

まだ仕事中なこともなぜか頭からすっぽ抜けて

黙って頷き返しながら

「生ビール2つお願いします」

と注文するNさんを眺めながら

なぜか

どうしてか


「弔い酒」


の文字が唐突に頭に浮かんだ

私は

(いやいや……)

かぶりを振って大きく息を吐いた

なぜそんな言葉が浮かんだのか

本当に分からない

けれどNさんは何も言わない

不自然に頭を振り息を吐く私を見ても何も言わない

ただただ

もう何も言わずに微笑むだけのNさんを見て

「この人には本当はなにが見えているんだろう」

あえて後輩の行方のことからは逃げるように

意識を逸らすように考えた

本来の仕事でやっていることは

占いと言うよりほぼカウンセリング的なものなのだろうけれど

Nさんは

そんなのでは済まない何かを持っている気がした

そして

ビールが運ばれてくると

まだたった半年しか一緒に仕事を共にしていない後輩だったけれど

多分

きっと

「もう二度と会えない」

のだろうなと

黙ってNさんとグラスを軽く合わせながら

私はそれを

教えられた気がした


後輩の遺体が見つかったのはそれから3日後

海にしては綺麗な状態での発見だったと聞かされた













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Nさん @ku-ro-usagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ