冷たい女

鈴鹿 一文(スズカカズフミ)

第1話 冷たい女



「冷たい女」


  登場人物

山田航一(やまだこういち)(28)明和出版社員

西邑水無月(にしむらみなづき)(30)山田の上司

阿見寺凛(あみでらりん)(28)山田の同僚




○会社・外

   “明和出版”の看板


○会社・室内

   机が並ぶ室内。みな忙しそう。


○会社・室内・山田のデスク

   机に書類が散乱、山田、窓の

   外を見ている。


○会社・窓

   外は雨が降っている。


○会社・室内・山田のデスク

   山田、ポケットから指輪の

    ケースを出す。

山田「今日、6月21日は、

 西邑先輩の誕生だ。今日こそ

 想いを伝えるんだ」


○会社・室内・の水無月のデスク

   西邑水無月(にしむらみなづき)(30)の席に

   山田航一(やまだこういち)(28)やってくる。

山田「西邑先輩、今夜食事行きま

 せんか?」

水無月「私は、今日中に、報告書を

 作る義務があります」

山田「水無月先輩、それ何時に

 終わりますか?」

山田「20時には終了です」

水無月「先輩、今日お誕生日です

 よね、仕事の後、僕と食に行き

 ませんか?」

水無月「プライベートタイムに

 部下と食事する義務はありません」


○会社・室内・山田のデスク

   阿見寺凛(あみでらりん)(28)登場。

凛「来週の会議資料が見当たら

 ないの。もしかして山田君の机に

 ないかな」

山田「いや、あるなら阿見寺の机だろ」

凛「ごめん、全部探したけどない。

 後可能性あるのは山田君の机だけ」

   凛、涙目。


○会社・室内・山田のデスク

   山田、凛、机を片付ける。

凛「あ、これだ、この資料だ」

山田「阿見寺の資料がなんで俺の

 机にうえにあるんだよ」

   凛、山田に抱きつく。

凛「やった!よかった」

山田「まあ見つかってよかったよ」

凛「山田君、このあと空いている?」

山田「いや、まあ・・」

   凛、映画のチケット2枚出す。

凛「お礼に映画でもどう?」

   山田、チラリと水無月を見る。


○会社・室内・の水無月のデスク

   机に向かう水無月。


○会社・室内・山田のデスク

凛「西邑先輩って、美人だけど、

 なんだか冷たいよね」

山田「そうかな」

凛「なんていうか、人間ぽくない、

 ロボット見たい、私苦手」

山田「そうなんだ」

凛「一人暮らしの上、友達一人もい

 ないらしいよ」

   山田、水無月を見ている。

凛「私と映画行くの嫌?」

山田「そんな事ないよ、行くよ、

 映画見に行く」


○映画館・室内

   映画をみる山田と凛。


○映画館・室内

   映画が終わり、明るくなる。

   凛、館内に水無月見つける

   水無月泣いている。凛、

   いそいで立ち上がる。

凛「ねえ、お腹すかない?」

山田「そういえば、空いてるかな」

凛「美味しいレストランがあるん

 だ、行かない?少し歩くけど」

山田「ああ、いいよ、行こうか」


○公園(夜)

   遊歩道を歩く山田、凛。

凛「山田君はなんで、うちみたいな

 小さな出版社に入ったの?」

山田「就職試験、ことごとく落ちて

 落ち込んでベンチに座っていた時、

 たまたま通りがかりの人が、

 うちの会社の人だった。で、

 受けたら合格した、それだけ」

凛「私は、有望な作家を発掘して、

 世界中を飛び回りたいから、

 小さいけど有望な、今の会社に

 入ったの」

山田「へえ、阿見寺は熱い奴なんだ」


○公園・(回想)

   リクルートスーツ姿の山田。

   ベンチで頭を抱えて疼くまる。

山田「もうだめだ、僕は欠陥人間

 なんだ、生きている価値ない」

   水無月通りかかる。

水無月「どうしました、君、具合悪い

 ですか?救急車呼ぼうか?」

山田「大丈夫です。じっとしてれば

 治ります。体の不調でなく、

 心の不調だから」

水無月「すまないです。急な

 おせっかい迷惑ですか?」

山田「迷惑でないです。人に

 心配されることが嫌な人間は

 いません、嬉しいです」

水無月「そうか。体の不調より、

 心の不調の方が深刻です。それ

 は目に見えないから、治療が

 困難なのです」

   水無月そう言って立ち上がり、

   どこかに行ってしまう。山田、

   目を閉じてベンチに横になる。

   プリンを持つ水無月登場。

水無月「母が、私が落ち込んだ時、

 いつもプリンを食べさせてくれ

 ました。プリンは心を治療します」


○公園・(回想)

   水無月の胸が山田に近づく、

   シャツに“明和出版” の文字。

水無月「プリンどうぞ」

山田「ありがとうございます」

水無月「それでは、私は会社に

 戻ります」

   水無月たちさる

山田「いい匂いの女性だったな」

山田(M)「多分、僕はその時すで

 に恋に落ちていたのだ」


○公園(夜)

   ベンチで猫と遊ぶ水無月登場。


○公園(夜)

   凛少し怒り顔。

凛「ちっ、疫病神が(小声)」


○公園(夜)

   山田、水無月の方に走る。

山田「水無月先輩!」

   山田を見て、水無月逃げる。

   山田、水無月の手を掴む。

水無月「すみません。野良猫を

 可愛がるのは、違法行為です」

山田「そんな事ないです、水無月先輩

 さっき映画館にいましたよね」

水無月「見逃してください、

 独身女性が一人で映画を見るの

 も違法行為です」

山田「そんなの普通です。

 一人カラオケも、一人焼肉も、

 一人映画も断じて合法です」

   水無月怯える。

水無月「山田さん手を離して

 ください。怖いです」

   山田、手を握ったまま。

山田「離しません。でも大切な

 誕生日の夜を一人で過ごすの

 はいけないことだ」


○公園(夜)

   凛、水無月と山田の間に

   割って入る。

凛「水無月先輩、私たち今から

 食事するの」

水無月「それは、邪魔して

 ごめんなさい」

山田「邪魔したのは、僕の方です。

 ごめんなさい」


○公園(夜)

凛「山田君、水無月先輩の手を

 握ってどうするつもり?」

山田「あ・・いや・・それは・・」

水無月「山田さん、手を離して」

山田「水無月先輩は、僕が手を

 離したら、大事な誕生日の夜、

 どう過ごすんですか?猫と

 一晩中話して過ごすんですか?」

   水無月、山田を見る。


○公園(夜)

   一人で立つ凛。

凛「山田君、私を本気にさせたわね?」


終わり














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冷たい女 鈴鹿 一文(スズカカズフミ) @patapatapanda

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